医薬品中のニトロソアミン類(NDMA・NDEA・NMBA等)分析の受託試験
ニトロソアミン類が検出される可能性のある医薬品原薬・製剤の研究開発や製造を行っているメーカーで、次のようなことをお考えではないでしょうか。
- 原薬や製剤におけるニトロソアミン類(PMDA指定9種のニトロソアミン類)が限度値以下であることを確認したい
- NDMAやNDEA以外のニトロソアミン類の分析も実施したい
ユーロフィン分析科学研究所では、GMP省令準拠で管理された分析機器を用いて、ニトロソアミン類分析の試験法開発、バリデーション、定量試験もしくは限度試験が可能です。
また、NDMA、NDEA以外のニトロソアミン類(NMBA、NMPA、NIPEA、NDIPA、MeNP、NDBA、NMOR、NDPA、NDXT)と、幅広い簡易定量も可能です。
バルサルタン等のサルタン系医薬品や、ヒスタミンH2受容体拮抗薬であるラニチジン塩酸塩の原薬及び製剤から、発がん性物質「N-ニトロソジメチルアミン(NDMA)」が検出されました。
それを受け、製造販売事業者は、米国食品医薬品局(FDA)、欧州医薬品庁(EMA)、厚生労働省等の各国規制当局より、ニトロソアミン類が限度値以下であることを確認するよう求められています。
ニトロソアミン類の規制について
ニトロソアミン類とは?
ニトロソアミン類とは、アミン窒素上の水素がニトロソ基に置換された構造を持つ化合物群です(図1)。一般に、二級アミンと亜硝酸が反応して生成されます。
(図1)
R1とR2が-CH3(メチル基)であるN-ニトロソジメチルアミン(NDMA)や、R1とR2が- CH2CH3(エチル基)であるN-ニトロソジエチルアミン(NDEA)には、発がん性があることが知られています。
NDMAの発がん性は、1957年ノルウェーの飼育動物で肝臓がんの頻度が上昇したことから確認されました。原因は、動物の食餌であったニシンに含まれるジメチルアミンと、保存剤の亜硝酸ナトリウムが反応してNDMAが生成したと特定されました。
ニトロソアミンは、食品の他、水、化粧品、たばこ等に含まれていることが示唆されています。
医薬品中のニトロソアミン類の検出から規制まで経緯
2018年7月に、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(サルタン系医薬品)であるバルサルタン原薬において、NDMAやNDEAが検出されました。
サルタン系医薬品におけるニトロソアミン生成経路は、合成中に溶媒であるジメチルホルムアミド(DMF)と、テトラゾール環形成で使用するアジドをクエンチするために使用される亜硝酸が反応することによると考えられています。
[参考:FDA「Control of Nitrosamine Impurities in Human Drugs」、WHO「Information Note Nitrosamine impurities」]
これを受け、米国及び欧州では、サルタン系医薬品の調査や回収が行われました。
国内においても、厚生労働省からサルタン系医薬品におけるNDMA及びNDEAの管理指標が設定されました。
NDMA及びNDEAの生成リスクのあるサルタン系医薬品を製造販売する事業者は、この管理指標に従った管理が求められるようになりました。
2019年にはFDA及びEMAより、ヒスタミンH2受容体拮抗薬であるラニチジン塩酸塩の製剤及び原薬からNDMAが検出されたことが報告されました。
ラニチジンにおけるNDMAの生成経路は、温度とラニチジン自身の構造によるとものと考えられています。ラニチジンは、NDMAの元となるN-ジメチル構造と、ニトロ基を有しています(図2)。
(図2)
NDMAは、通常の保管条件でも増加することが確認されています。さらに、流通から消費者の取扱い時を含め、高温にさらされると大幅に増加することが判明しています。
[参考:FDA「FDA Requests Removal of All Ranitidine Products (Zantac) from the Market」]
また、第三者機関による評価においても、130℃の温度条件下でラニチジン自身が反応してNDMAが生成されることが、実験的にも示唆されています。
[参考:Valisure「Valisure Citizen Petition on Ranitidine」]
これを踏まえ、国内においても、厚生労働省からラニチジン塩酸塩又はラニチジンと類似の化学構造を有するニザチジンについて、NDMAの管理指標が設定されました。
これらの医薬品を製造販売する事業者は、この管理指標に従った管理が求められるようになりました。
さらに、シンガポール保健科学庁(HSA)より、ビグアナイド系経口血糖降下薬であるメトホルミン塩酸塩の製剤からNDMAが検出されたことが報告されました。
メトホルミン塩酸塩からのニトロソアミン生成経路は、一部の研究において原薬中に含まれるジメチルアミンと大気中の二酸化窒素によるものと判明しました。
[参考:ACS Publications「N-Nitrosodimethylamine Formation in Metformin Drug Products by the Reaction of Dimethylamine and Atmospheric NO2」]
これらを踏まえ、国内においても、厚生労働省からメトホルミンを含有する製剤について、NDMAの管理指標が設定されました。
医薬品中のニトロソアミン類の国内の管理指標
ニトロソアミン類の管理指標の考え方は、「潜在的発がんリスクを低減するための医薬品中 DNA 反応性(変異原性)不純物の評価及び管理ガイドライン」(ICH-M7ガイドライン)の考え方が適用されています。
NDMAやNDEAの毒性データから許容摂取量を設定した上で、許容摂取量を超えないよう、原薬又は製剤中の不純物の限度値が設定されています。
各成分における、NDMA及びNDEAの管理指標は、下表のように設定されています。
*:メトグルコ錠及びその後発医薬品の場合
※上記の管理指標は、厚生労働省の以下の通知を引用。
管理にあたっての不純物測定は、各限度値以下であることを確認できる検査水準にて行う必要があります。
上記の通知後、厚生労働省より「医薬品におけるニトロソアミン類の混入リスクに関する自主点検について」(令和3年10月8日)が新たに通知されました。
これまでニトロソアミン類が検出された医薬品以外の医薬品においても、ニトロソアミン類が混入している可能性は否定できず、その混入リスクを可能な限り低減することは重要であるため、本通知においてニトロソアミン類の混入リスクに関する自主点検の取扱いが定められました。
本通知では、以下の医薬品を対象として、ニトロソアミン類の混入リスクを評価するように定められています。
- 化学合成された医療用医薬品、要指導医薬品及び一般用医薬品
- 生物製剤等のうち、以下のニトロソアミン類混入リスクの高いもの
・化学的に合成したフラグメントを含む生物製剤等であって、化学的に合成した有効成分と同等のリスク因子が存在するもの
・ニトロソ化試薬を意図的に添加する工程を用いて製造されるもの
・特定の一次包装資材(ニトロセルロースを含有するブリスターパック等)を用いて包装したもの
自主点検の基本的な考え方として、ニトロソアミン類の既知の混入原因、混入リスク評価方法、分析方法開発の原則等については、EMA又はFDAのガイダンスを参照することとされています。
本通知において、医薬品中に混入するニトロソアミン類の限度値も定められています。
既知のニトロソアミン類が1種類確認された場合は、以下の表に示した許容摂取量が適用されます。
*げっ歯類の TD50 値(腫瘍発生率が50%となる用量)等から算出。10 万分の1という理論上の発がんリスクに相当する変異原性不純物の1日摂取量。
※略称説明
NMBA:N -ニトロソ-N-メチル-4-アミノ酪酸
NMPA:N-ニトロソメチルフェニルアミン
NIPEA:N-ニトロソイソプロピルエチルアミン
NDIPA:N-ニトロソジイソプロピルアミン
MeNP:メチルニトロソピペラジン
NDBA:N-ニトロソジブチルアミン
NMOR:N-ニトロソモルホリン
新規のニトロソアミン類が1種類確認された場合は、ICH-M7(R1)を参考に一生涯曝露を想定した限度値や、構造活性相関又は遺伝毒性試験に基づいた限度値を設定する等、科学的に妥当な方法で限度値を設定するように記載されています。
また、2種類以上のニトロソアミン類が確認された場合は、10万分の1という発がんリスクを超えないように、科学的に妥当な方法で限度値を設定するように記載されています。
本自主点検を円滑に行うため、厚生労働省より『「医薬品におけるニトロソアミン類の混入リスクに関する自主点検について」に関する質疑応答集(Q&A)について』(令和4年12月22日)、『「医薬品におけるニトロソアミン類の混入リスクに関する自主点検について」に関する質疑応答集(Q&A)についての一部改正について』(令和5年8月4日)が事務連絡されました。
以下15の質問に対する回答が記載されています。
- 「医薬品におけるニトロソアミン類の混入リスクに関する自主点検について」の別添1.(1)には「化学合成された医療用医薬品、要指導医薬品及び一般用医薬品」とあるが、有効成分が化学合成されたもののみを対象とするのか。
- 無機塩類は、今回の自主点検の対象外と考えてよいか。
- 生薬及びその製剤(漢方エキスを含む) は、今回の自主点検の対象外と考えてよいか。
- 特定の一次包装資材としてニトロセルロースを含有するものが挙げられているが、その他リスクの高い包装資材として考えられているものは何があるのか。
- 自主点検通知の別添(1)には「混入原因、混入リスク評価方法、分析方法開発の原則等については、EMA又はFDAのガイダンスを参照すること。」とあるが、参照するガイダンスの箇所を具体的に示してほしい。
- 原薬 若しくは製剤の製造又は包装に係る製造業者及び 添加剤、試薬、容器施栓系等の 供給 業者から適切な情報開示がない場合、 ニトロソアミン類の混入リスク評価はどのように行えばよいか 。
- 2種類のニトロソアミンが検出され、 自己点検通知の別添(2)①の表で示された許容摂取量に基づき 限度値を設定した場合でも、限度値の設定の妥当性を 厚生労働省に相談する必要があるのか。
- 限度値を超えるニトロソアミン類が検出され、監視指導・麻薬対策課に報告する必要がある場合、 どのように報告すれば良いか。
- ニトロソアミン類の混入リスクについて、自主点検通知の別添(1)に示す評価期限(令和5年4月30日)以降に新たな混入・生成ルートの知見が得られた場合、リスク評価を再度実施する必要はあるのか。また、再評価結果を踏まえ、ニトロソアミン類の測定を行い、限度値を超えるニトロソアミン類の混入が確認された場合、リスク低減措置はいつまでに行えばいいのか。
- リスク評価の結果、混入リスクが確認されないとされた場合や測定の結果限度値以下であった場合、その旨を厚生労働省に 報告する必要はあるか。また、リスク評価や測定結果に関する報告書等については、社内でどのように取り扱えばよいか。
- ニトロソアミン類の混入リスクが 確認されないことは 何をもって判断するのか。自主点検の基本的な考え方について「EMA又はFDAのガイダンスを参照すること。」とあるが、解釈が異なる可能性があるため、厚生労働省から評価項目リスト等の提示する予定はないか。
- 自主点検通知の別添(2)には「限度値を超えるニトロソアミン類の混入が確認された品目については、速やかに監視指導・麻薬対策課宛て報告すること。」とあるが、知事承認品目についても監視指導・麻薬対策課に報告することでよいか。
- ニトロソアミン類に関する自主点検について、 原薬等登録原簿(MF)の登録者(登録者が外国製造業者の場合はMF国内管理人)が直接相談することは可能か。
- ニトロソアミン類の混入リスク評価方法等について、自主点検通知及び本Q&Aに記載された内容以外に相談したい事項がある場合、相談することは可能か。
-
自主点検通知の別添2.(2)には「がん原性試験データを利用出来ない場合は構造活性相関又は遺伝毒性試験に基づき限度値を設定する等、科学的に 妥当な方法で限度値を設定すること。」と記載されているが、今般、EMAガ イダンスが更新され、The Carcinogenic Potency Categorization Approach (CPCA) for N-nitrosamines (Annex 2)が示されたことを受け、本邦における 限度値設定においてもこれを利用して差し支えないか。
(※CPCAについては、「EMAニトロソアミン類 発がん性リスク新評価法(CPCA)を解説」、「ニトロソアミン類発がん性リスク評価方法(CPCA)におけるFDAとEMAガイドラインの違い」をご覧ください。)
その後、『「医薬品におけるニトロソアミン類の混入リスクに関する自主点検について」の実施期限延長について』(令和6年7月30日)が通知されました。
この中で、対応期限は、令和6年(2024年)10月31日から令和7年(2025年)8月1日に延長されることが決まりました。(詳細は、「お役立ち情報:ニトロソアミン類リスク評価の国内対応期限延長」をご参照ください。)
その他、詳細な情報は、PMDA特設サイト「医薬品におけるニトロソアミン類混入リスクへの対策」も併せてご確認ください。
当社のニトロソアミン類分析のアプローチ
当社のニトロソアミン類分析の一般的なワークフローは次の通りです(図3、図4)。
バリデーションされた試験法での確認
(図3)
まず、お客様のご依頼の原薬や製剤の特性に合わせ、LC-MS/MSを用いて、NDMAやNDEA等の許容限度値をクリアできる試験法を開発します。
ICH-Q2ガイドラインに基づいて、分析法バリデーションを実施します。
バリデートされた分析法を用いて、定量試験もしくは限度試験を実施します。
当社試験法を用いた簡易定量
(図4)
当社にて立ち上げたニトロソアミン類(PMDA指定9種+その他2種のニトロソアミン類)の一斉分析法を用いて、お客様の原薬や製剤等に含まれるニトロソアミン類の簡易定量を実施します。
当社では複数試験法を有しており、事前の質問票による物性情報を基に事前検討にて最適な試験法の組み合わせを選択します。
その後、お客様のご希望の許容限度値をクリアできるよう、各ニトロソアミン類の基準濃度及び試料調製濃度を決定し、LC-MS/MSを用いて簡易定量(限度試験)を実施します。
ユーロフィン分析科学研究所に依頼するメリット
- GMP省令準拠で管理されたLC-MS/MSを用いて、高感度・高精度で分析が可能
- PMDA指定9種+その他2種の幅広いニトロソアミン類の簡易定量が可能
- 海外ラボを通じて、さらに幅広いニトロソアミン類のリスク評価、毒性学的評価及び海外規制対応のコンサルティングが可能
当社は、GMP省令に準拠した組織を構築しています。その運営下で、プロトコルの作成、試験、サンプルの保管、施設・機器・システムの管理を実施しています。
その管理下にある、LC-MS/MSが利用可能です。
当社では、島津製作所社のNexera X3、及びエービー・サイエックス社のQTRAP® 6500+ LC-MS/MSシステムを導入しています。
一般にニトロソアミン類分析には、GC-MSが使用されています。しかし、GC-MSは、ラニチジンやニザチジンのように熱に弱く、化合物自身が分解し、NMDAが生成する恐れがある場合には適していません。また、ニトロソアミン類は低濃度域の定量を伴います。
そのため、熱に弱い化合物を測定でき、かつ高感度・高精度で測定可能なLC-MS/MSを用いて試験法開発、バリデーション、定量試験もしくは限度試験または簡易定量を実施しています。
当社の国内ラボでは、以下PMDA指定9種+その他2種のニトロソアミン類の簡易定量が可能です。
NDPAは、欧州薬局方(Ph.Eur.)の一般章で規制されているニトロアミン類です。
NDXTは、抗うつ薬デュロキセチン製剤中に生成する可能性がある、ニトロアミン原薬関連不純物(NDSRIs)です。NDXTは2022年12月に欧州医薬品庁(EMA)のガイダンス(Appendix 1: Acceptable intakes established for N-nitrosamines)で公表されています。
複数のニトロソアミン類を同時測定することが可能です。NDMA及びNDEAは内標準法で測定可能(d体を準備)です。
各成分定量限界は、0.05 ng/mL程度を満たします(試料濃度 10 mg/mLに対して、0.005~0.3 ppmレベルの検出を目指します)。
さらに幅広いニトロソアミン類のリスク評価が必要な場合は、当社の海外ラボ(イタリアミラノラボ)を通じて実施可能です。
海外ラボでは、2018年初頭からニトロソアミン類に関する業務を開始しており、長年の実績と多くのノウハウがあります。
サーモフィッシャーサイエンティフィック社のOrbitrapやアジレント・テクノロジー社のLC/MS QQQ等、高感度検出器とLC/MSを保有しており、一度に最大20種類のニトロソアミン類のリスク評価が可能です。
また、規制当局から許容摂取量が規定されていない、新規ニトロソアミン類やAPIに関するニトロソアミン類(NDSRIs:Nitrosamine Drug Substance-Related Impurities)に対する毒性学的評価や海外規制対応のコンサルティングも可能です。
海外ラボで実施する場合は、当社が全面的にサポートします。
ユーロフィン分析科学研究所では、GMP省令準拠で管理された分析機器を用いて、ニトロソアミン類分析の試験法開発、バリデーション、定量試験もしくは限度試験または簡易定量が可能です。
ニトロソアミン類の分析をお考えであれば、ぜひ当社をご活用ください。ご質問やご相談は、お気軽にお問い合わせください。
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