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ニトロソアミンおよび変異原性不純物の検出における課題

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ICH-M7を含む現行のガイドラインは、変異原性不純物として疑われるまたは分類される医薬品不純物の評価と限界値の評価に関する概要を提供しています。

これらの不純物は、既知の添加剤、環境因子、医薬品組成物の分解生成物と関連している可能性があります。

遺伝毒性不純物に対して提案された限界値は、ガイダンスで検討された一般的な不純物よりもかなり低く、ppmからppbレベルまでを検出し測定できる分析技術が必要です。

本技術コラムでは、変異原性不純物を検出するための分析技術の概要について説明します。

 

はじめに

臨床試験用の新薬開発では、安全性と有効性を実証することが必要です。この20年で、CMCの安全性要件は、より明確に定義されるようになりました。

具体的には、容器施栓や製造に関連した原薬や製剤の不純物の評価は、医薬品規制調和国際会議(ICHInternational Council for Harmonisation of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Use)、規制当局、米国薬局方(USPUnited States Pharmacopeia)などのガイドラインで網羅されています。

微量金属や変異原性不純物に関するガイドラインの導入は、不純物が厳格に管理されていることを表しています。

ICH-M7ガイダンスでは、新原薬および製剤に含まれる可能性のある変異原性不純物を評価することによって、発がんリスクを抑えることができると述べています。変異原性不純物の測定に関連する主な課題は、多くの場合、低いレベルから非常に低いレベルの検出限界値が要求されることです。

 

変異原は、細胞のDNAに突然変異または変化を引き起こします。変異原によって惹起されるDNAの変化は、細胞に損傷を与え、がんなどの特定の疾患を引き起こす可能性があります。

変異原の例としては、放射性物質、X線、紫外線照射、特定の化学物質などがあります。

 

 

変異原性不純物のレベル評価

非変異原性不純物は、通常、標準的な検出技術を用いて、原薬で評価しますが、その検出レベルは0.05%w/wまたは相対ピーク面積を上回っています(ICH-Q3A)。変異原性不純物の推奨される閾値レベルは、1日摂取量と投与期間によって決まります。これらのことから、変異原性不純物は、10 ppm未満の濃度では、1.5 μg/日未満に制限されます。

したがって、表1に示すように、70倍の低さを検出する技術が必要となります。変異原性不純物の混入を検査する1つの方法は、変異原性不純物を主な3つの発生源で分類するというものであり、検出の複雑さは、変異原性不純物の発生源により異なります。

 

1Q3AM7のレベル比較

一般的な不純物

 

変異原性不純物

投与期間

TTC(毒性学的懸念の閾値)(μgICH-M7

1日量 mg

Q3A 同定

1日摂取量(μg

1カ月以下

1カ月超12カ月まで

1年超10年まで

10年超から一生涯

50

0.10%

50

120

20

10

1.5

100

0.10%

100

250

0.10%

250

500

0.10%

500

2001

0.10%

1000.5

 

このように、表1および少しの計算から明らかなように、定量される変異原性不純物は、0.05%のレベルおよび毒性の懸念がある30%の閾値で、一般的なQ3A不純物よりもはるかに高い感度を必要とします。

本技術コラムでは、3つの発生源のうち、添加されるものとマトリックスで形成される可能性のあるものの2つについて説明します。浸出物といわれるEnvironmental MIsは、通常、別に規定されたプログラムで分析されるため、ここでは取り上げません。

 

 

添加された変異原性不純物

添加されたものの検出は、形成された可能性のあるものを検出するよりも複雑ではありません。いずれも初期評価が必要です。

例えば、5段階の合成ステップの3段階で酸塩化物を添加したことがわかれば、サンプルは入手可能であり、検出特性は推定できるため、変異原性不純物の検出は簡単なプロセスであることが示唆されます。さらに、利用可能な毒性データにより、評価が簡略化されます。

評価において、添加された変異原性不純物の存在の有無について、最終原薬または中間体の評価が必要な場合、分離技術と検出技術が評価されます。このことから、以下の考慮すべきいくつかの疑問が生じます。

 

  • 現在の分析方法で、変異原性不純物を検出することができるか?検出できるならば、検出限界はどのくらいか?
  • 毒性学的懸念の閾値(TTCThreshold of Toxicological Concern)に基づく検出限界または定量限界はどの程度が望ましいか?
  • 化合物は揮発性か?
  • 変異原性不純物の予想されるイオン化特性とそのMSへの適用性はどうか?
  • 変異原性不純物の反応性はどの程度か?誘導体形成を検討する必要があるか?

 

一般に、変異原性不純物は通常、高い化学反応性を有しています。このことは、精度を確保する一環として原薬(APIactive pharmaceutical ingredient)をサンプルに添加する場合、これらの反応種の安定性を評価するための方法の開発時に考慮する必要があります。

例えば、ハロゲン化アルキルの変異原性不純物は、アミンと反応することが知られており、回収研究の精度に影響を与えることがGCヘッドスペース分析で観察されています。

 

 

ニトロソアミン - 意図しない添加または形成

最近、市販品で確認された残留ニトロソアミンが注目されています。

N-ニトロソ化合物ファミリーの発がんリスクとそれについての大々的なマスコミ報道により、科学者や規制専門家がその問題に大きく巻き込まれることになりました。

米国食品医薬品局(FDAFood and Drug Administration)、欧州医薬品庁(EMAEuropean Medicines Agency)、ならびにその他の国際機関は、経験、データ、および知識を共有するために、積極的な連携を開始しました。

当初、規制当局は、医薬品不足となる可能性と患者の健康の保証とのバランスを慎重にとる必要がありました。

米国や欧州では、ラニチジンなど臨床的に有効な代替品がある汚染薬物は、予防措置として一時的に使用中止となりましたが、この決定はまだ最終的なものではないようです。

 

この方法が実行できない場合(例えばサルタン系薬剤)、これらの不純物レベルでの厳しい暫定的な制限が、関連する欧州薬局方各条の試験法ならびにすべての有効成分または米国薬局方<1469>の一般試験法(2.4.36)に導入されています。

これらのGC/MS法またはHPLC/HRMS法の感度は適切です。ニトロソアミンは、製造工程に存在するアミンあるいは残留物の分解や反応により生じるアミンから形成される可能性があります。

例えば、ジメチルホルムアミドは、ジメチルアミンを形成する可能性がある製造用溶媒であり、窒素酸化物が存在すれば、ニトロソアミンを形成する可能性があります。

では、確証試験を検討する場合、窒素酸化物や二級アミンを調べる必要があるでしょうか?

 

Krasnerら(*1)が特性を明らかにした水源で形成されたニトロソアミンは、ニトロソアミンを評価する際に必要な深さを例示しています。

最も重要なのは、特に都市用水が製造工程の一部に使用されている場合、水源に必要な管理手順です。クロラミン、アミン、および窒素酸化物はすべて都市用水の好ましくない残留物であり、日々の変動性が高いため、管理法は複雑なものとなります。

 

規制当局の決定は、より高感度な試験法(MSMS検出を用いた高分解能技術など)の必要性と、汚染リスクを軽減するためには、製造工程の徹底した見直しが必要であるという多くの意見に基づいています。

 

そのため、欧州医薬品庁では、すべての医薬品にリスクベースの評価を要求しています(*2)。このステップの経過措置期限は、現在20213月となっています。

9月の初めに米国食品医薬品局(FDA)が業界向けに発行した最近のガイダンス[X]では、米国当局は欧州と完全に足並みをそろえています。特に、生物由来製剤は、汚染のリスクが非常に低いという理由で、当初は考慮されていませんでしたが、現在は対象となっています。

この対処の変更は、市販医薬品および新規に提示された医薬品のすべてが対象になるという規制当局の期待に沿ったものです。

 

欧州医薬品庁は、教訓についての演習も行っています。そのため、現在、変異原性不純物の管理に有効なICH-M7などの国際的なガイドラインは、将来的に同様な状況を回避するために、長期間の複雑な改訂サイクルを経る可能性が高いと考えられます。

 

 

分解生成物あるいはマトリックスまたは工程での形成物である変異原性不純物

「添加された変異原性不純物」よりも困難なのは、変異原性に注意を払わなければならない分解生成物が発見されることです。

不純物確認のプロセス(Q3A(R2))やその他の情報により、図1に定義されているような毒性学的に懸念される分解生成物が発見された場合、さらなる取り組みが必要になることがあります。

分解生成物の構造決定ならびに安全性の確認のためのデシジョンツリー

1:分解生成物の構造決定ならびに安全性の確認のためのデシジョンツリー

<注釈>

a)必要に応じ、最小限のスクリーニング試験(例えば、遺伝毒性のための試験)を実施する。突然変異を検出する試験及び染色体異常を検出する試験は、いずれも in vitro の試験であるが、最小限のスクリーニング試験として差し支えない。

b)一般毒性試験を実施する場合には、安全性の未確認のものと安全性の確認済みのものの比較ができるような1つあるいはそれ以上の試験の計画を立てる。試験期間は入手できる関連情報に基づいて決定し、分解生成物の毒性を最も検出しやすいと考えられる動物種で試験を実施する。ケースバイケースではあるが、特に単回投与医薬品の試験を行う場合には、単回投与試験も許容されよう。通例、最短 14 日間、最長 90 日間の試験期間が適切と考えられる。

c)毒性の非常に強い分解生成物については、これよりも低い閾値が適当な場合もある。

d)例えば、この分解生成物は、既知の安全性データあるいは化学構造から見て存在する濃度ではヒトへの安全性が懸念されることのないようなものか?

 

Q3A(R2)のデシジョンツリーの図にある「毒性の非常に強い分解生成物であれば、より低い閾値が適当な場合もある」という注釈の間に、わずかなずれがあることがわかります。

これは有毒な分解生成物に対処していますが、同時に同定の必要性を示唆するものではありません。

デシジョンツリーは、分解生成物を必要な閾値未満に低下させるオプションを示唆するので、さらなる処置は必要ありません。

同定されていない分解生成物の非常に強い毒性をどのように評価したらよいのでしょうか?Q3A(R2)単独では、変異原性不純物を評価する厳密さに欠けており、変異原性不純物を評価するには、ICH-M7に従う必要があります。

最悪の状況の例を考えてみます。

  • M7のような評価では、原薬中に懸念される可能性のある分解生成物が存在していること、または対応する製剤が2つの有効成分と多くの添加剤を含有していることが確認されます。

 

警告構造の存在を確認するために、原薬に意図的にストレスを与えた後、イン・シリコ解析およびバクテリアアッセイを実施するなど、さらなる試験が検討される場合があります。

 

「添加される変異原性不純物」に関して、上記に加え、さらに以下の疑問が挙がります。

  • 分解生成物の分離/合成は、絶対構造の確認、分析標準物質の提供、およびin vivo試験用の物質の提供のために必要か?
  • この分解生成物は、例えば、長期安定性試験の一環のように、複雑な製剤においてモニタリングまたは評価する必要があるか?

 

起こりうるシナリオの1つは、置換アニリンなど、一次構造に含まれる官能基に注意を要するイン・シリコ変異原性不純物の存在です。

提案されるまたは既知の明らかにアニリンの部分構造を有する分解生成物は、イン・シリコに注意を要します。

親分子に変異原性がないことが示されていれば、同様な分解生成物はこのパターンに従うという考えが一般的に受け入れられています。しかし、少なくともリスク評価を実施することが推奨されています。ICHは、M7は進行癌のための薬剤には適用できないとしています。

 

 

検出技術

量が少ない不純物を定量する必要がある場合、検出のための選択肢は、適切なものもあれば、そうでないものもあります。

2は、リストに記載された検出器の一般的な感度を示しています。(UVは任意に1の値が割り当てられ、スケールは他の検出器との関係を表しています。)

電気化学的な検出器は、値が0.1であり、その感度はUVの概ね10倍となります。これらの一般的な感度は、化合物に大きく依存することに留意する必要があります。

 

2HPLC検出器の一般的な感度の概要

検出器

スケール

UV

1

Diode Array (DAD)

7

Charged Aerosol (CAD)

1.5

Light Scattering (ELSD)

7

Refractive Index (10)

10

Electrochemical

0.1

Conductivity

2

Fluorescence

0.001

MS

1

MS Trap

0.0001

 

3に示すように、質量分析による検出は、明らかに感度に優れ、化合物の同定が可能であるという追加的な利点があります。

例えば、Q Executive® Orbitrapのような機器を備えた単一イオンモニタリング機能のあるトラップ型MSは、複雑なマトリックス中の少ない量の定量を可能にし、変異原性不純物のスクリーニングやモニタリングの両方に非常に有益です。

3GC 検出器感度

GC検出タイプ

化合物

おおよその検出限界

FID

Carbon compounds

0.1 ppm

ECD

Halogen, NO3

0.1 bbp

FPD

S, P

10 ppb

TCD

Most

10 ppm

FTD

Nitrogen Organics

0.1-1 bbp

(phosphrous)

MS/SIM (EI)

Most

100 ppt

MS (EI) SCAN

Most

10 ppb

 

変異原性不純物を評価し、必要に応じて定量する場合、合成、毒性学、分析、および製造の専門家からの意見を集約し、化合物独自の戦略に活用し、医薬品開発を通じて継続的に評価することが重要です。

 

 

まとめ

以下の3つが変異原性不純物の発生源であると考えられます。

  1. 添加された不純物(工程中の不純物も含む)
  2. 環境汚染
  3. 分解生成物

 

変異原性不純物のプロファイリングは、多くの場合、低レベルでの検出力が必要とされます。

利用可能な多数の技術や検出器の選択肢が存在し、新しいMS技術は、IDおよび定量に役立つツールです。

変異原性不純物の同定と定量の複雑さは、変異原性不純物が既知か未知か、その化合物の特性、および必要な検出レベルに関連しています。

ニトロソアミンの評価には、製造工程のあらゆる側面に特別な注意を払う必要があります。

 

 

参考文献

*1 Krasner el al., (2013). Formation, precursors, control, and occurrence of nitrosamines in drinking water: A review, Water Research, Volume 47, Issues 13, Sept, 2013, pg. 4433-4450, Retrieved online July 8, 2020.

 

*2 EMA-CHMP Procedure under Article 5(3) of Regulation EC (No) 726/2004 Nitrosamine impurities in human medicinal products, EMEA/H/A-5(3)/1490, 25 June 2020

https://www.ema.europa.eu/en/documents/referral/nitrosamines-emea-h-a53-1490-assessment-report_en.pdf

 

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