BioPhorum(BPOG)E&L試験ガイドラインのポイントを解説
BioPhorum(当時BioPhorum Operations Group:BPOG)は、バイオ医薬品業界のシニアリーダーが協力し、医薬品の上市を加速できる環境作りをミッションとする業界団体です。
BioPhorumは、6000人の専門家が協力し、90以上の業界を変革するイニシアチブをリードする10フォーラムで構成されています。
BioPhorumでは、2014年以来、エンドユーザーやサプライヤーと協力して、バイオ医薬品業界が最も安全で迅速かつスマートな方法で使用するシングルユースシステム(SUS)を承認するための効果的なE&Lメソッドを確立しています。
主要なガイドラインは、以下2点です。
- Biophorum best practices guide for extractables testing of polymeric single-use components used ㏌ biopharmaceutical manufacturing
(抽出物に関するガイドライン) - Best practices guide for evaluating leachables risk from polymeric single-use systems used ㏌ biopharmaceutical manufacturing
(浸出物に関するガイドライン)
本技術コラムでは、SUS部材のE&L試験を実施する可能性がある医薬品メーカー、医療機器メーカー、包装デバイスメーカーの方の参考ために、BioPhorum(BPOG)ガイドラインのポイントを解説します。
Biophorum best practices guide for extractables testing of polymeric single-use components used ㏌ biopharmaceutical manufacturing
本ガイドラインは、2014年に、当時BioPhorum Operations Group(BPOG)より、SUSの理解と普及を促進することを目的に、標準化された抽出物(Extractables)プロトコールとして公開されました。
このプロトコールは、業界で広く、BPOGプロトコールと呼ばれるようになりました。
このプロトコールは、サンプルの前処理から、抽出条件、試験品のサンプリング条件の記録、抽出物の分析データの報告等、抽出物試験の推奨方法に関するガイダンスが提供されています。
公開から5年後の2019年には、レビューを実現する以下の3つの重要なアップデートが揃いました。
一つ目にレビューを可能にする十分な量のデータが作成されたこと、二つ目に浸出物リスクに関する考え方も検討され、広く受け入れられたベストプラクティスガイドに集約されたこと、そして、三つ目にBioPhorumのチームにサプライヤーを加えることで、コラボレーションを発展させたことです。
本ガイドラインでは、そのレビューに続いて2014年のプロトコールからの変更点を報告し、いくつかの領域で明確化されたものです。
本ガイドラインは、以下3章で構成されています。
- 第1章:イントロダクション/Introduction
- 第2章:抽出物試験/Extractables studies
- 第3章:結論/Conclusion
第1章では、抽出物プロトコールのアップデート、抽出物データの適用、適用範囲、アセンブリ(組み立て品)とそれを構成する部材(についてまとめられています。
抽出物プロトコールのアップデート箇所は、以下3点です。
- 抽出溶媒として、5M塩化ナトリウムと、1%ポリソルベート80を削除
(固有の抽出能力が低いことが示されたため) - 抽出開始直後のデータ取得の廃止
(この時点で観察された化合物は、後の時点ではより高濃度で存在することが示されたため) - 50%エタノール抽出物の元素分析の廃止
抽出物データの適用では、バイオ医薬品メーカーは、コンポーネントの特定の用途に関する抽出物データの評価や、工程内流体接触試験、最終容器の浸出物試験の責任を負うことが記載されています。
適用範囲では、SUS部材の一例が示されています。
- 保管、混合、バイオリアクターの袋に使用されるフィルム
- チューブ
- チューブ用コネクタ
- センサー
- バルブ
- エラストマー部品(ガスケット、Oリング、ダイヤフラム、セプタ) 等
アセンブリとそれを構成する部材の評価では、同一メーカー、同一の製造プロセス、同一の材料で製造されたサイズ違いの部材が複数ある場合は、各サイズを評価するのではなく、結果がワーストとなる部材を代表して評価し、その結果を共用することが可能という内容が記載されています。
第2章では、抽出物試験における、ばらつきへの対応、抽出溶媒・曝露時間・曝露温度、分析方法、データの報告等がまとめられています。
抽出物試験は、原料(樹脂)、製造、抽出時、分析時等様々な要因でばらつきが発生する可能性があります。
このばらつきを調査し、現実的にどの化合物が抽出されるかを可能な限り把握することが目標とされています。
理想としては、2つのロットから製造された部材を別々に抽出して調査することです。
抽出物試験で用いられる抽出溶媒は、バイオプロセスで一般的に使用される以下の溶媒が使用されます。
- 注射用水
- 0.1M リン酸水溶液(低pH)
- 0.5N 水酸化ナトリウム水溶液(高pH)
- 50%エタノール(脂肪族アルコール、グリコール、界面活性剤などの有機物を含む溶媒)
曝露時間及び曝露温度は、24時間、7日間、21日間、70日間と、40℃と規定されています。
部材の種類によって、抽出溶媒と曝露時間・曝露温度が異なります。詳しくは、Table 2「SUS部材別の抽出溶媒、曝露時間、及び曝露温度」に記載があります。
抽出物試験の分析技術の目的は、SUS部材から抽出された成分を特定し、定量的に評価することです。
0.1 μg/mL以上の濃度で検出された個々の物質は報告し、可能であれば、認証された物質を用いて定量することが推奨されています。
まず、HPLC又はUHPLCとPDA(フォトダイオードアレイ)検出及びMS(質量分析)による分析が必要とされています。
MSは、ESI(エレクトロスプレーイオン化)とAPCI(大気圧イオン化)を用いてポジティブとネガティブの両方のモードを実行する必要があるとされています。
マトリックス干渉濃度を軽減するための希釈は許容されています。
次に、揮発性物質用のヘッドスペースインレットと半揮発性物質用のダイレクトインジェクションインレットを備えたガスクロマトグラフ(GC)による分析も、必要とされています。
検出され識別された物質は、CAS番号、IUPAC命名法又はその他の関連科学名を用いて報告する必要があります。
同定が不可能な場合、化学分類、組成式、分子量又は最も高質量側に出現しているピークのm/zを報告するように規定されています。
そして、ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析)による分析も必要とされています。
USP<232>又はICH-Q3Dガイドラインに規定されており、抽出物に存在するすべての元素の量を定量化し、報告する必要があります。
本ガイドライン中では、SUS部材の抽出物の同定と定量化に適用される上記4つの解析手法について推奨されるアプローチ(機器の設定、分析法の適格性確認、システム適合性試験)が具体的に概説されています。
抽出物試験のデータ報告については、QA(品質保証)によって承認された報告書と、バイオメーカーによるデータの利用を容易にする標準化されたスプレッドシートで行うように規定されています。
第3章では、締めの言葉がまとめられています。
以上が本ガイドラインの概要です。
さらに詳しくは原文を、こちらからご確認ください。
Best practices guide for evaluating leachables risk from polymeric single-use systems used ㏌ biopharmaceutical manufacturing
業界調査によると、抽出物や浸出物に関する懸念が、ディスポーサブル(使い捨て)技術の導入における第一の障壁であることが示されています。
EMA(欧州医薬品庁)等の規制当局が要求する明確な規制ガイダンスはありますが、企業がこれをどのように行うべきかについての情報(コンセンサスやベストプラクティス)は、これまでほとんどありませんでした。
BioPhorumの浸出物チームは、このギャップを埋めようとする17の主要なバイオ医薬品メーカーの代表者の協力で構成されています。
本ガイドラインは、以下5章で構成されています。
- 第1章:イントロダクション/Introduction
- 第2章:リスクアセスメント/Risk assessment
- 第3章:浸出物試験デザイン/Leachables study design
- 第4章:分析法/Analytical methods
- 第5章:重要な教訓とよくある落とし穴/Key lessons and common pitfalls
第1章では、抽出物と浸出物の違い、本ガイドラインの目的がまとめられています。
抽出物とは、通常の使用条件よりも厳しい条件下で、プロセスシステムの構成要素から溶媒に抽出される化学物質です。
ここで示される条件とは、抽出物のガイドラインで解説したように、抽出溶媒、曝露時間、曝露温度等が含まれています。
バイオ医薬品の製造プロセスにおいて、このような過酷な条件が発生することはありませんが、抽出物に関する知見は、製造プロセスに入り込む可能性がある浸出物を特定するのに役立ちます。
一方、浸出物とは、通常の使用条件下で、SUS部材から発生する化学物質です。
抽出物試験で観察された化学物質が、通常の使用条件下で必ずしも浸出物になるとは限りません。
SUS部材からの浸出物は、通常原薬に対して微量ではありますが、最終製品に含まれる可能性があるとされています。
本ガイドラインの目的は、SUSのバイオ医薬品製造プロセスに関連する浸出物リスクを評価するための実用的かつ適応性のあるアプローチを提示することです。
第2章では、抽出物と浸出物の溶出リスクの評価、モデルリスクアセスメントプロセスについて記載されています。
Figure 2「製造プロセスと溶出リスクの関係(DAS)」を以下に日本語で図式化しました。
最終製剤への溶出性には、曝露温度、曝露時間、プロセス流体相互作用、希釈倍率の4つのファクターが影響します。
また、最終製剤への溶出性は、製造の上流工程よりも、下流工程の影響を受けやすいです。
リスク評価モデルにおける加工条件には、以下のものが含まれています。
加工条件 |
ポイント |
曝露温度 |
<0℃、0-8℃、8-30℃、>30℃で別々に検討することは、水系での使用には実用的です。 |
曝露時間 |
一般に、60分未満の処理または曝露は、浸出のリスクが低いです。 分、時間、日、週の単位でタイムスケールを適用し、リスクプロファイルを作成します。 |
プロセス流体相互作用(PFI)、又は溶媒和力と溶媒浸透力 |
溶媒の極性やpHによって浸出物の影響が変わります。 |
希釈倍率、又は曝露面積/処理液量比 |
浸出物の濃度は、移行する浸出物の量と、ポリマー成分が曝露される液体の体積に依存します。 SUS部材の曝露表面積が大きいと、浸出する機会が多くなります。 ポリマー中の抽出物濃度が高いほど、浸出しやすくなります。 |
前処理 |
オートクレーブ、ガンマ照射、注射用水注入による部品の前処理は、その浸出物のプロファイルに影響を与える可能性があります。 |
モデルリスクアセスメントプロセスとして、Table 1「浸出物リスク評価モデルの例(DAS、曝露温度、曝露時間、PFI、希釈倍率)」やTable 2「浸出物リスク評価の計算例」でモデル例がまとめられています。
Figure 4「リスク分類に基づく推奨要件」では、3つのリスクスコアに対する要件がまとめられています。
- Low(0-3.6):USP Class VI、EPを満たすこと
- Medium(7-6.2):Lowリスクの要件に加えて、使用目的に合致した抽出物データの評価(BPOGプロトコルによる)を実施すること
- High(3-9.0):Mediumリスクの要件に加えて、使用目的、関連するE及び/又はLプロファイルを裏付ける抽出物データの評価を実施すること
第3章では、シングルユースシステム(SUS)の部材の浸出物試験を実行するための試験デザインについてペストプラクティスが記載されています。
浸出物試験は、実際のプロセス流体、原薬、製剤を使用して実施する必要があります。
試験で得られたデータから最大限の価値を引き出すには、堅牢な浸出液試験のデザインが重要です。
Table 3「SUS部材の浸出物試験の主要パラメータ」では、以下のようなキーとなるパラメータに対する検討事項がまとめられています。
- ネガティブコントロール
- サンプルの取り扱い
- 試験検体
- 接触液(溶媒、バッファー、工程中間体、DS/製剤バルク)
- 滅菌・前処理
- サンプル量
- インキュベーション
- 接触時間
- 温度
- 分析法
第4章では、浸出物試験の分析法について、サンプルの選択と取り扱い、分析法の概要、分析システムの適合性基準、浸出物の同定と定量、バリデーション/適格性、分析データの報告、浸出物の安全性評価の報告について記載されています。
サンプルの選択と取り扱いでは、分析用サンプルを製造プロセスの様々な場所から試験用に集めなければならないとされています。
分析法の概要では、浸出物試験で使用する分析法は、抽出物試験と同一又は類似であるべきであるとされています。
Table 4「浸出物判定のための分析法の概要」では、分析対象別の分析技術/手法と、分析分類がまとめられています。
以降、各分析法のポイントが以下のようにまとめられています。
- ガスクロマトグラフィー法:HS/GC/MS、GC/MSを推奨
- 液体クロマトグラフィー法:LC/MS(APCIとESI)、LC/UVを推奨
- 元素分析法:ICP/MS、ICP/AES
分析システム適合性基準では、適切な基準及び参考資料を使用すべきであると記載があります。ただし参考資料が入手できないときは、調査している成分に関連する既知の適切な化学種又は化学的に類似した化合物を用いて、半定量的な価値を算出しても良いとされています。
浸出物の同定と定量では、特定の分析に必要な適切な安全閾値、所定の医薬品の線量パラメータとその投与経路を考慮した、計算された分析評価閾値(AET:analytical evaluation thresholds)を使用できます。
閾値設定は、ICH-M7やPDE値(permissible daily exposure:1日当たりの曝露量)に基づくことができます。
バリデーション/適格性は、意図された使用用途に応じて、正確性、精度、特異性、頑健性、検出限界、定量限界、直線性、範囲を実施することが推奨されています。
分析データの報告では、以下を報告するように規定されています。
- 既知化合物の量と同定
- 未知化合物の推定化合物量と化合物の種類
- 各手法における分析条件
- 結果の背景を説明するために必要な補足事項
- 各種試験法の分析パラメータと試験法の性能基準(感度、精度、正確性等)
浸出物の安全性評価の報告では、最終的な浸出物適格性評価報告書は、安全性評価のために濃度結果をμg/dayに変換する必要があります。
浸出物安全性評価は、毒性評価から得られたAET/SCT(safety concern threshold:安全上の懸念基準)及び/又はターゲット浸出物の特定のカットオフ値以上に検出された化合物のみをリストアップする必要があります。
第5章では、重要な教訓とよくある落とし穴として、一般的な教訓、リスクアセスメント、試験デザイン、分析方法に関連する事項が簡潔にまとめられています。
以上が本ガイドラインの概要です。
さらに詳しくは原文を、こちらよりダウンロードしてご覧ください。
まとめ
シングルユースシステム製品の抽出物と浸出物に関するBPOGガイドラインの概要をまとめました。
これらの製品に関わるメーカーの方の参考になれば、幸いです。
ユーロフィン分析科学研究所では、GMP省令準拠で管理された分析機器を使って、E&L試験が実施可能です。
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