ベテラン臨床検査技師の『病理医ドラマ・フラジャイル』考 その①|これって何?バイオコラム 番外編
お久しぶりです、臨床検査技師のまこりんです(第2回目をご参照ください)。
前回のコラムで、もも太さんから紹介がありましたが、今月から放送が開始された『フラジャイル』(http://www.fujitv.co.jp/FG/index.html)で描かれた病理現場の模様について、病理一筋ウン十年のわたしからみなさんにわかりやすく解説していきたいと思います。
一般のみなさんに病理の世界を知っていただくよい機会ができましたので、便乗してみようと思います。口下手ですが、お付き合いお願いいたします。
そもそも、「病理」とは何でしょうか?いろいろな表現ができると思いますが、日本の病理界の総本山ともいえる日本病理学会によると
とされています(http://pathology.or.jp/ippan/pathdiag.html)。
病理診断・検査にはいくつもの種類がありますが、当社では病理解剖以外の病理細胞診検査を網羅的に実施しており、その診断件数は年間十数万件に及んでいます。
さて、ではなぜ病理診断が「最終診断」と言われているのでしょうか?
イギリスの作家アーサー・ヘイリーは著作『最後の診断』の中で主人公である医師ピアスンにこう述べさせています。
「患者の血液を検査し、便を調べ、病気をつきとめ、腫瘍が悪性であるか良性であるかを判定するのが病理学である。病気に関して患者の担当医に助言をするのが病理学であり、時おり、医学における他のすべてが失敗したとき・・・最後の診断をくだすのが病理学者である」―
つまり、病理学者(=病理医)は裁判官とも言えるということです。長瀬さん演じる岸医師の決めゼリフ「君たちが医者でいる限り、 僕の言葉は絶対だ!」というのは、ここに起因しているのですね。
ただ、実際の病理の現場では、臨床医の先生方とのコミュニケーションが重要です。当然、ドラマに描かれているような臨床医の先生ばかりではなく、実際に患者さんと30秒ルールで(かどうかは存じませんが)対話し、診断されていらっしゃいますので、当社のような病院ではない病理診断の専門会社でも、診断依頼書に記載されている臨床医の先生の所見は重要な診断要素であり、当社の病理医も依頼主である臨床医の先生方と常に意見交換しています。
それにしても、北大路欣也さんが演じる中熊医師の言葉にはあらためて驚きました。
調べてみると、主たる診断科別にみた医師数では全国で1,766名(「平成26年(2014年)医師・歯科医師・薬剤師調査の概況」)とのことです。つまり病理「診断」を行っている医師はこのくらいだということです。著名な病理医の記述によると、都道府県によっては5名しかいない県もあるとのことで、当社に常勤病理医が3名、非常勤病理医が2名も在籍していることは大変恵まれた環境であることを再認識しました。
この状況を打開するためにも、医師を目指されている方々が1人でも多く、病理の世界に足を踏み入れてくれることを期待しています。
病理医不足の現状とは裏腹に、病理学が必要となってくる診断領域はどんどん広がっています。当社の技術顧問になっていただいている、北海道大学病院の畑中豊先生はコンパニオン診断研究に勤しんでおられます(http://www2.huhp.hokudai.ac.jp/~companion-w/index.html)。
「コンパニオン診断」とは、第5回コラムで、もも太さんが述べているように、分子標的医薬品が投薬対象者に有効かどうかを投与前に予測するために、標的分子の発現量や関連遺伝子変異、遺伝子多型などのバイオマーカーを検査し診断することです。この診断結果によって、個人ごとに低リスク・低コストかつ短期間に治療できる方法の選択が可能になります。
当社では、病理診断と同時に、遺伝子解析事業も実施しており、この両方の領域を融合させた当社ならではの分子病理分野にも注力しています。
このコンパニオン診断の世界でも、最終診断である病理診断は大きく関わっており、どのような治療薬を投与すべきかを特定するための診断報告を提供します。
治療方針を決定するにあたって必要不可欠である病理診断、わたしも患者さんの幸せに少しでも役に立つため、今日もまた勉強勉強です!
※ 当コラムは、あくまでも個人的見解による内容となっております。予めご了承ください
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