バイオコラム番外編~ベテラン臨床検査技師の『病理医ドラマ・フラジャイル』考 その②
こんにちは、臨床検査技師のまこりんです。
さて、『フラジャイル』(http://www.fujitv.co.jp/FG/index.html )第3話、みなさんはご覧になられたでしょうか?
今回のテーマは「診断の確定」でしたね。
消化器内科の中西医師は、状況証拠から患者さんをクローン病だと診断します。クローン病とは、
―大腸及び小腸の粘膜に慢性の炎症または潰瘍をひきおこす原因不明の疾患の総称を炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease:IBD)といいます。
クローン病も、この炎症性腸疾患のひとつで、1932年にニューヨークのマウントサイナイ病院の内科医クローン先生らによって限局性回腸炎としてはじめて報告された病気です。
クローン病は主として若年者にみられ、口腔にはじまり肛門にいたるまでの消化管のどの部位にも炎症や潰瘍(粘膜が欠損すること)が起こりえますが、小腸と大腸を中心として特に小腸末端部が好発部位です。非連続性の病変(病変と病変の間に正常部分が存在すること)を特徴とします。それらの病変により腹痛や下痢、血便、体重減少などが生じます。―
とされています(難病情報センターホームページ http://www.nanbyou.or.jp/entry/81 より)。
しかしながら、病理の岸医師は、クローン病であると診断を確定しません。特に生検組織であったためクローン病の診断の決め手となる非乾酪性の類上皮細胞肉芽腫などが確認できなかったからだと思われます。
参考資料:クローン病診療ガイドライン
難治性炎症性腸管障害に関する調査研究班プロジェクト研究グループ
(http://minds4.jcqhc.or.jp/minds/CD/crohn_cpgs_2011.pdf )
私は、まだ駆け出しで総合病院に勤務していたころ、消化器内科の医師に「病理は院内の良心である」と言われたことを、ふいに思い出しました。病理診断に嘘があってはならない、たとえ疑わしい所見があっても組織学的に所見を見出せなければ、確定診断をすることはできません。岸医師はそれを貫き、全身検索を依頼します。「1%の可能性を潰すための検査に、医者なら心を折らないでいただきたい」と。
しかし、中西医師は全身検索を実施してはくれません。同じ内視鏡検査を繰り返すばかりです。そこで岸医師は、感染症の可能性を確認する意味で組織内の結核菌などの抗酸菌の染色に用いられるチールネルゼン染色という、通常のヘマトキシリン・エオジン(HE)染色とは別のアプローチをします。
チールネルゼン染色については、神戸大学医学部附属病院病理診断科・病理部 一般社団法人ひょうご病理ネットワーク いむーのワーキンググループ(http://immuno2.med.kobe-u.ac.jp/20080127-3451/ )をご覧ください。
一方、中西医師はクローン病と臨床診断だけで免疫抑制剤の治療を始めてしまいます。自己の免疫を抑制したことで、本来の病因である保有していた結核菌が活性化、発症し、喀血してしまうという結果に陥ってしまいました。そこで岸医師は結核菌に特異的なIGRA検査を指示します(IGRA:新結核用語辞典http://www.jata.or.jp/terminology/z_17.html )。
「患者が好きだろうと、そんなことは関係ない。100%の診断をする、それだけだ。」
診断を確定しないと、正しい治療が行えない典型的な事例が描写されており、改めて病理診断の重要性を感じています。
※ 当コラムは、あくまでも個人的見解による内容となっております。予めご了承ください。
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