抗凝固剤|これって何?バイオコラム 第19回
こんにちは。もも太です。
読者のほとんどの方は、過去に健康診断を受けられた経験があると思います。血液検査の採血時に、採血管がたくさん並んでいることに疑問を感じたことはありませんか?この訳は、検査項目毎に正しい採血管を用いて検査しないと正確な結果が得られないからです。今回はこの採血管の中に入っている抗凝固剤の話題をご紹介します。
血液が固まる一連の作用系を凝固系と呼びますが、そのしくみは複雑かつ巧妙で、凝固因子と呼ばれる多くの分子が連続的に働くことで血液凝固へ導かれます。血液を抗凝固剤無しの容器に採取し30分ほど静置すると、主成分である赤血球、白血球、および血小板が凝固因子の作用を受けて完全に凝固します。これを遠心すると2層に分かれ、下部に凝固した赤い部分の血餅(けっぺい)、上部に黄色い血清 (けっせい、Serum) に分けることができます。主に血清は一般的な生化学検査に用いられていますが、この血液は血液細胞成分(赤血球、白血球、血小板)が凝固してしまっているので、これら細胞成分をそれぞれに測定することはできません。一方、抗凝固剤入りの容器に採血した血液は、その細胞成分の赤血球数、白血球数、血小板を直接測定することが可能となります。また、遠心分離によって血漿 (けっしょう、Plasma)が得られます。血清と血漿の主な違いは、凝固系を経たか経ていないかの違いですが、特定の検査項目では測定値に大きな開きが出ることがあります。凝固系を経て得られる血清では、その過程において血液細胞成分に含まれる物質が漏出し、例えば、乳酸、アンモニアなどは、血漿に比べて高くなります。このように、検体が血清か血漿かによって、検査値の正確性に影響することがあります。
なお、抗凝固剤の種類にも色々あり、以下にその代表物質を列記しました。また、それぞれの抗凝固の作用機序および主に用いられる検査を示します。
EDTA:血液が凝固するのに必要なカルシウムイオンと結合することで凝固を阻害します。この作用が測定に影響しない、血液一般検査(赤血球数、白血球数、血小板数、ヘモグロビン値など)、血小板凝集能検査,電解質検査(Na,K, Cl)などの他、内分泌学検査、細胞性免疫機能検査などに多用されます。
ヘパリン:凝固系で抗凝固として働くアンチトロンビンIIIの持つ抗トロンビン作用を促すことにより抗凝固作用を示します。血液ガス、血液pH、染色体検査などに利用されています。
クエン酸ナトリウム:EDTAと同じように、血液が凝固するのに不可欠なカルシウムイオンと結合することによって抗凝固作用を示します。しかし、溶液であるため、検体の容積が増加して採血した血液が薄まり、検査結果に影響を与えますので、血液一般検査には用いません。凝固系検査、赤血球沈降速度検査をはじめとして、特定の酵素活性測定などへの使用が推奨されています。
フッ化ナトリウム:これも血液が凝固するのに不可欠なカルシウムイオンと結合することによって抗凝固作用を示しますが、特徴的なのは、解糖系に係る酵素活性を阻害する働きがあるので、これが検査結果に影響しない血糖を測定する際に多用されます。
さて、前振りが長くなりましたが、当社の遺伝子解析やタンパク質解析の受託解析サービスをご利用する際に、血液、血清、血漿、どの検体をどのように提出すればいいですか?と質問されることがよくあります。あらかじめこのようなご質問をいただくことは、非常に重要で有難いことです。例えば遺伝子解析では、特に不安定なRNAの解析の際、血中での安定性を保ち、RNAを効率良く抽出できるように、一般的な採血管ではなく特殊な指定採血管の使用をお奨めしています。また血中タンパク質の解析では、測定対象となるターゲットによって、血清、血漿ともに測定可能、一方のみ推奨、いずれかでは測定不可など、それぞれに適する検体が特定されており、正しい精度保証ができる検体の選択が必須です。
当社では、それぞれの解析において、みなさまからお預かりした検体から精度良く正確な結果を得られるようにするため、このような検体の種類の選択に加え、最適な品質を保つための保存条件や送付条件などのアドバイスを行っております。ご出検を検討されている際には、サンプル採取前にぜひご相談ください。
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