トイレットペーパーにPFASは含まれる？各国の研究データと暴露経路
投稿日：2024年12月26日
私たちは日々の生活で、トイレットペーパーをはじめ様々な紙製品を使用します。それだけに安全性には十分留意したいところですが、アメリカの大学の研究でトイレットペーパーにPFAS（有機フッ素化合物）が含まれるという報告があります。この記事では、PFASの特徴や規制の動向、トイレットペーパーに含まれる理由など、各国の研究データと暴露経路に触れながら解説します。
INDEX
PFAS（有機フッ素化合物）とは？
PFAS（有機フッ素化合物）とは、炭素とフッ素の強力な結合を持つ化学物質の総称です。
正式名称は「ペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物（Per- and PolyFluoroAlkyl Substances）」と言い、頭文字を取った略称としてPFASと呼ばれています。
正確な数には諸説ありますが、約1万種類以上の化学物質がPFASに分類されると言われています。
PFASの特徴として水と油の両方を弾く撥水性・撥油性があり、焦げ付きにくいフライパンや防水スプレーなど、日常生活で馴染み深い様々な製品に使用されてきました。
自然界で分解されにくいことから「永遠の化学物質」とも呼ばれ、さらに一部のPFASに人体や環境への有害性が認められたことで、アメリカやEUをはじめとした世界各国で製造・使用を規制する流れが進みつつあります。
特にEUは一定以上の濃度のPFASを含有する混合物・成型品について、EU域内での製造・販売・使用を全面的に禁止するという厳しい規制を敷く構えです。
また、PFASのうち、以下の3つの化学物質は人体への影響が疑われることから、化審法（化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律）によって日本での製造・使用・輸出入が禁止されています。※2024年10月現在時点
一部のトイレットペーパーからPFASが検出される
PFASは一部日用品からも検出されています。今回具体例として紹介するトイレットペーパーもその一つであり、一部のメーカーを対象とした調査でPFASの検出が確認されています。
リサイクル紙を使用したトイレットペーパーに含有
フロリダ大学の研究チームが2023年3月1日に発表した調査データによれば、匿名調査を行った全21のメーカーのトイレットペーパーにPFASが含有されていました。
特に最も多く検出されたのが、6:2 diPAP（ジフルオロアルキルリン酸エステル）という化学物質です。
この物質は、環境によりEU等で規制が検討されているPFASの一種、PFCAs（パーフルオロカルボン酸類）に変化する可能性があります。
変化するのはPFCAsの中でもC7以下（炭素数が7以下）の短鎖PFASに限るものの、人体や環境への影響が懸念されています。
PFASが及ぼす下水処理への影響
トイレットペーパーにPFASが含まれている場合、下水処理に影響を及ぼす可能性があります。
使用済みのトイレットペーパーを流すことで、トイレットペーパーに含まれている6:2 diPAPが下水中に流出します。
フロリダ大学の研究チームの調査によれば、トイレットペーパーの使用により、廃水システムに6:2 diPAPが一人あたり年間で約6.4～80 μg流入すると推定されていました。
下水中に含有されるPFASの国別割合
国によっても下水中に含有されるPFASの割合は異なります。
前述のフロリダ大学の研究チームの調査によれば、調査対象となった国のうち、トイレットペーパーが6:2 diPAPの汚染に寄与する割合は下記の通りであることが判明しました。
- 米国：約4％
- スウェーデン：35％
- フランス：最大89％
こちらの調査データは、下水中のPFAS濃度や各国の一名あたりのトイレットペーパー使用量、その他の研究データ等を合わせて結論付けられたものです。
国によって下水中のPFAS濃度に差がある理由としては、トイレットペーパーの製造過程や、各国で使用される紙製品の種類の違いなどが影響していると考えられています。
そのほか、製造プロセスや添加剤の差異、規制の厳格さ、下水処理効率など、様々な要因によってPFAS濃度が異なる可能性があります。
トイレットペーパーの製造過程でPFASが含まれやすい理由
トイレットペーパーの製造過程でPFASが含まれやすい理由について解説します。
前提として、アメリカにおけるトイレットぺーパーなどの製紙産業の業界団体であるAF&PA（アメリカ森林製紙協会）は、6:2 diPAPを含むPFASはトイレットペーパーの製造やその他のティッシュ製品の生産には使用されていないと表明しています。
しかし、フロリダ大学の研究に参加した大学院生のジェイク・トンプソン氏は、PFASが含まれる原因について「トイレットペーパーの製造に使う機器に由来している可能性があるが、製紙業者が気づいていない可能性がある」と触れていました。
製紙業者がトイレットペーパーを生産する際の原料としてPFASを意図的に添加しているわけではないものの、機械を経由してコンタミネーション（不純物の混入・汚染）が発生する可能性はあります。
トイレットペーパーに含有されるPFASの健康リスク
トイレットペーパーにPFASが含有されていることによる健康リスクについて、現時点で直接的に健康を害することを立証したデータはありません。
しかし、トイレットペーパーが人体の粘膜部分にこすりつけるように使用するものである以上、何らかの影響を懸念する人もいます。
世界各国の規制動向や新たな研究結果を参考にしないと断言できない部分はありますが、今後人体や環境への影響が明らかになる可能性はあります。
現時点でトイレットペーパーの使用を控える必要はありませんが、日ごろからテレビ・新聞のニュースをチェックする、生活用品メーカーのプレスリリースや国内外の関連記事・調査論文を確認するなどして情報収集に努めましょう。
PFASの暴露リスクを理解しましょう
PFAS暴露の現状と健康上のリスクについては、正しい知識で情報収集して判断することが大切です。
現状では環境や人体への有害性が確認されていないPFASでも、PFOS・PFOAのように、人体に対する発がん性等が指摘される物質が今後発見される可能性はあります。
国や地方自治体などの公的機関や企業のリリースをこまめにチェックし、できる範囲でPFASへの暴露を避けましょう。
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【参考資料】
- EUにおける化学物質規制の動向 (2023年6月22日 No.3595) | 週刊 経団連タイムス
- Toxic ‘forever chemicals’ found in toilet paper around the world | PFAS | The Guardian
- Toilet paper is an unexpected source of PFAS in wastewater, study says - American Chemical Society
- 物質の特徴 東京都保健医療局