PFASは紙コップにも使用されている?国内外の調査結果と企業の動向
投稿日:2024年8月1日
PFAS(有機フッ素化合物)は日用品に多く使用されており、一部のPFASは人体に影響を与える可能性があることが各国の研究で明らかとなっています。
現在は飲料水や食品、製品への使用に対する見直し議論が世界的に活発化していますが、その中でも口に直接つける紙コップへのPFAS含有は確認されているのでしょうか。今回は紙コップの製造・使用におけるPFAS含有の有無について解説します。
INDEX
PFASは紙コップへの意図的な含有はない
最初に結論から述べると、紙コップへのPFASの意図的な含有はないと考えられています。紙コップは主に紙材と防水用のラミネート材から作られており、防水用ラミネートの材料はポリエチレンです。ポリエチレンはエチレンが重合した化合物のため、炭素とフッ素が結合した構造をもつPFASとは異なります。
ただし、PFASに分類される化学物質は1万種類以上あり、大気中や製造工程の環境中にも存在しています。そのため、販売店や製造工場の中で紙コップへの付着や混入が起こった場合、PFASが検出される可能性があります。
米国の調査結果:PFASは紙コップからは検出されず
アメリカの研究チームが実施したファストフードの食品包装材についての調査では、2014年から2015年にかけて全米で400点以上のサンプルを調査した結果、紙コップからのPFASの検出は確認されませんでした。
調査の対象となったいくつかのファストフードチェーンにおいては、紙コップへのPFASの含有は一般的ではないと推測できます。
しかし、紙コップ以外の調査結果は異なります。サンドイッチやハンバーガーを包む紙、それらを入れた紙のボックス、フライドポテトを入れる厚紙などの調査を行った結果、多くのPFASが含有されていたと判明しました。
一部の包装紙・紙箱からはPFASが検出される
アメリカの研究チームが実施した食品包装に関するPFAS含有の調査結果において、包み紙・紙箱からPFASの検出が報告されました。デザートとパンの包装紙には56%、サンドイッチとバーガー類の包み紙には38%、紙箱には20%のPFASが含まれていたことが明らかになっています。
PFASは油や水を弾く特性を持つため、食品を食べるまでの時間に油や水が染みて、味が劣化することを防ぐ目的で使用されていたと考えられています。
この調査結果は2017年時点で報告されたものであり、2024年のアメリカにおいて、FDA(米国食品医薬品局)は「PFASを含有する油膜防止剤が食品の包装容器向けに使用されることはなくなった」と発表。現在はアメリカ国内でPFASを含有する食品包装紙が市場に流通しなくなったことから、食品包装におけるPFASの値は少なくなっていると予想されます。
世界的なファストフードチェーンは包装紙の脱PFASを掲げる
食品包装においてPFASの使用を控える動きは、グローバル企業が取り組み始めています。グローバルに展開するファストフードチェーンのA社では、2025年までに全ての容器からPFASを全廃すると発表しました。PFAS排除の方針を公表したファストフードの会社は他にも増えており、業界全体で脱PFASに向けて動き出しています。
紙コップに使用されているのはポリエチレン
紙コップに防水の用途で使用されているラミネート材は、ポリエチレンです。ポリエチレンはプラスチックの一種であり、ポリプロピレン・ポリスチレン・ポリ塩化ビニルと合わせて4大汎用プラスチックと呼ばれています。この中でも最も使用機会が多いのがポリエチレンです。
製品製造に使用されることが多いポリエチレンには、以下の3種類が存在します。
- 低密度ポリエチレン(LDPE)
- 高密度ポリエチレン(HDPE)
- 超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)
この中でも紙コップの防水に使用されることが多いのは、低密度のポリエチレンです。紙コップに使用されるポリエチレンの耐熱温度は約110 ℃に設定されているため、熱い飲料を入れたとしても成分が溶けることはありません。
ポリエチレンの使用用途
ポリエチレンは加工しやすく、水や油に強い性質を持っているため、包装用品から産業用の資材まで幅広く使用されています。具体的な使用用途は以下の通りです。
- ラップ
- ポリ袋
- ビニール手袋
- ポリケース
- 人工芝
- 自動車部品
身の回りにあるプラスチック製品の多くが、ポリエチレンを材料としたプラスチックです。
高密度ポリエチレンからPFASが検出された事例も
ポリエチレンはPFASではありませんが、ポリエチレンを使った製品にPFASが含まれる可能性はあります。EPA(米国環境保護庁)は、2021年、蚊を防ぐための殺虫剤の保管・輸送に使用される高密度ポリエチレン(HDPE)容器からPFASの含有が確認されたと発表しました。
発表を受けてメーカーが調査を実施したところ、容器の加工工程で化学反応が発生し、PFASが形成されたと判明。輸送に使用されているフッ素加工HDPE容器を変更することで対応しています。製造・保管・輸送の工程で意図的にPFASを使用しなくても、環境によってはPFASが検出される可能性があると判明した事例です。
食品包装を巡るPFAS動向に注目
日本国内においても、食品包装を巡るPFAS規制の動向の注目度は上がりつつあります。食品包装における海外のPFAS研究が進むにつれて、今後国内の規制も拡大していくと予測されています。世界の最新の情勢を見ながら、PFAS動向に今後も注視しましょう。
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記事の監修者
ユーロフィン日本環境株式会社 第三者分析機関としての信頼性や適合性を担保するために、品質システムの整備や監視活動に従事。特に、当社では分析実施項目の大部分でISO/IEC 17025の認定を取得し、PFASについてもISO/IEC 17025認定を取得しており、それら認定の維持管理を主要業務としている。また、国内外のグループ会社と連携した相互監査や技能試験評価、品質会議など、世界中に展開しているEurofinsグループの強みを活かした取り組みも実施。 |
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【参考資料】
- Environmental Science & Technology LettersVolume 4, Issue 3
- アメリカ環境保護庁、新たなPFAS汚染に関する情報を公開|国立環境研究所 環境情報メディア 環境展望台
- FDA, Industry Actions End Sales of PFAS Used in US Food Packaging|FDA
- 国立環境研究所 環境情報メディア 環境展望台| アメリカ環境保護庁、フッ素樹脂容器からのPFAS汚染を示す試験データを発表