PFASは自動車の製造にも使用されている?主な用途と規制の影響
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投稿日:2025年2月6日
PFAS(有機フッ素化合物)に分類される一部の化学物質は、水や油を弾き、熱に強い性質を持つことから、自動車製造などの幅広い分野で使用されています。
しかし、一部のPFASは人の健康に影響を及ぼすことが研究によって明らかになり、自動車製造への使用も問題視され始めています。
この記事では、自動車製造に使用されるPFASの役割や種類、規制の現状について詳しく解説します。
INDEX
自動車の製造に重要な役割を果たすPFAS
PFAS(有機フッ素化合物)とは、ペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物の総称であり、1万種類を超える物質が該当すると言われています。
PFASの中でもPFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)、PFOA(ペルフルオロオクタン酸)は特に汎用性が高く、泡消火薬剤・フッ素ポリマー加工助剤等、工業において幅広く使用されてきました。
汎用性の高い一部のPFASは自動車製造の分野でも活躍しており、パーツの製造過程や加工、自動車の半導体基板、撥水コーティング、洗浄剤などで重宝されています。
PFOS・PFOAはPOPs条約により製造・使用が禁止に
現在POPs条約(残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約)により、PFOA・PFHxSは廃絶物質(附属書A)、PFOSは制限物質(附属書B)に特定されています。
POPs条約は人体や環境に有害な化学物質の製造・使用・輸出入を規制する国際条約であり、日本・韓国・イギリス・オーストラリアなど182ヵ国が加盟しています。
POPs条約を批准している日本は、PFOS・PFOA・PFHxSを化審法(化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律)により製造・輸入等を原則禁止としました。
その他、新しいPFASも徐々に規制について、議論され始めています。
車の製造に使用される代表的なPFASの種類
現在では製造・使用が禁止されているPFASに代わり、代替物質として規制方針が決まっていない一部のPFASが使用されるケースがあります。
また、非粘着性・耐熱性・撥水性・撥油性などの性質を持つフッ素樹脂ゴムの一種「フルオロエラストマー(FKM)」など、PFASを含む素材が使用される事例もあります。
下記で紹介しているPFASは、現在も国際条約や化審法などで規制が検討されており、将来的に製造・輸入等が禁止されることも考えられます。
PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)
PFASの一種であるPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)は、別名テフロンとしても知られています。
PTFEは耐熱性があり腐食に強く、汚れを弾く目的でフライパンのコーティングなどに使用されるケースが有名です。
自動車製造においては、電気自動車のバッテリーや、シートヒーター、ブレーキセンサー、通気口など、燃料・ブレーキ・電気・ボディ等の系統で幅広く使用されています。
PTFEは平成21年に化審法の第一種指定化学物質から除外されており、国内において現在規制はありません。
PFNA(ペルフルオロノナン酸)
PFNA(ペルフルオロノナン酸)は、撥水性・耐油性が求められる車両のコーティングに使用されるケースがあります。
PFNAは動物実験で生殖毒性が発見され、肝臓・腎臓・甲状腺など人体に与える影響が現在も調査されています。POPs条約でも廃絶すべき対象として検討されている物質です。
PFNAについてより詳しく知りたい方は、下記の記事を参照ください。
【関連記事】PFASの一種であるPFNAとは?特徴や各国の最新規制動向を調査
PFBS(ペルフルオロブタンスルホン酸)
PFBS(ペルフルオロブタンスルホン酸)は、車の部品に使用される「ポリカーボネート(PC)」に耐熱性を与える添加剤です。
ポリカーボネートは、自動車のメーターパネル・ドアハンドル・インナーレンズなどに使用されています。
現在、EPA(米国環境保護庁)では廃棄管理報告が要求されていますが、日本国内での規制は行われていないため、自動車製造に使用されている可能性があります。
【関連記事】PFASの一種であるPFBSとは?特徴と規制の動向について
自動車に使用されるPFASが健康に与える影響
製造過程でPFASが使用された自動車は、PFASの曝露源になる可能性があります。
例えば、自動車のシートにPFASが使われている場合、皮膚を通して体内に吸収されることが考えられます。また、車内の空気や粉塵にPFASが含まれている可能性も否定できません。
製造年数が古い車の場合、各国で規制の対象になっているPFOS・PFOA・PFHxS(ペルフルオロヘキサンスルホン酸)等のPFASが含まれている可能性があります。
PFAS曝露の危険性については現在も調査段階であり、今後研究が進むにつれて影響が明らかになると予測されています。
PFASの規制を巡る自動車業界の状況
自動車製造に幅広く使用されているPTFEやPFNA、PFBSなどのPFASは、規制の内容によって、今後代替物質への切り替えが必要になる可能性が考えられます。
また、冷媒に使用されるHFC(ハイドロフルオロカーボン)や、HFO(ハイドロフルオロオレフィン)などのPFASは、欧州において規制対象となりつつあり、ECHA(欧州化学品庁)が管轄するREACH規則の対象になる可能性があります。
HFCやHFOは電気自動車に使用されるバッテリーの冷却に使用されており、規制対象に含まれた場合、熱マネジメントシステムを一から構築しなければならないケースが生じ得ます。
また、電気自動車に使用されるリチウムイオン電池もPFAS汚染の原因とされており、規制状況によっては業界全体に影響を与える可能性があります。
今後規制が進むことで発生する製造コストの増減や、新たな代替物質の開発に備えておく必要があるでしょう。
自動車業界のPFASの動向を注視しましょう
現在自動車製造に使用されているPFASに関しては、まだ明確な規制が行われていません。
今後の研究や規制動向によっては、PFOS・PFOA・PFHxS等と同様に国際条約で規制される可能性もあります。
自動車業界に影響を及ぼすPFASの規制動向に注視し、代替物質の必要性や切り替え時期などの情報を収集しましょう。
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【参考資料】
- PFOS、PFOA に関するQ&A集(2024 年8月時点)|環境省
- 20170315貿局第1号輸出注意事項29 第7号経済産業省貿易経済協力局|経済産業省
- POPs[ポップス]Persistent Organic Pollutants|残留性有機汚染物質
- PFAS に関する今後の対応の方向性(令和5年7月)|PFAS に対する総合戦略検討専門家会議
- 1.物質に関する基本的事項 [6]テトラフルオロエチレン|環境省
- 9002-84-0 / 6-939|化審法データーベース
- NITE-化学物質管理分野 GHS分類結果表示|製品評価技術基盤機構(Nite)
- Drinking water screening value for perfluorononanoic acid (PFNA) – Technical summary|カナダ連邦政府
- 電池診断技術の適用によEV リチウムイオン電池のライフサイクル最大化を目指したカスケードリユースモデル実証事業|環境省