ストックホルム条約(POPs条約)におけるPFOSの規制内容とは?
投稿日:2024年6月26日
有機汚染物質を規制する国内のルールは、「POPs条約(残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」の影響を大きく受けています。特に、PFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)の規制内容を理解するうえで、POPs条約の基本的な内容を把握しておくことは重要です。
化学物質を扱う企業の担当者の中には、POPs条約の内容を詳しく知りたい方も多いのではないでしょうか。
この記事では、POPs条約の基本的な内容や、PFOSとPOPs条約との関係性、POPs条約が日本に与える影響などについて解説します。
INDEX
POPs条約(残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約)とは
POPs条約とは、有機汚染物質の国内規制に大きな影響を与える国際条約のことです。
POPs条約の内容を理解することで、国内で実施されている規制の内容や方向性を把握できます。まずはPOPs条約の基本的な情報と、日本とPOPs条約との関係性について解説します。
POPs条約の概要
POPs条約(残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約)とは、PCB(ポリ塩化ビフェニル)や、ダイオキシン類、DDT(ジクロロジフェニルトリクロロエタン)等、POPs(Persistent Organic Pollutants:残留性有機汚染物質)の製造及び使用の廃絶等を規定した国際条約です。
POPsは、環境中での残留性や生物蓄積性があり、人や生物への毒性と長距離移動性の高さが問題視されている化学物質のことです。
日本をはじめ、POPs条約を締結している加盟国は、対象物質に対する各国の条約を担保できるように国内の法令で規制することが決められています。
POPs条約の目的と対象物質
POPs条約では、以下の性質を持った化学物質が規制の対象となります。
- 毒性
- 難分解性
- 生物蓄積性
- 長距離移動性
POPs条約の対象物質は、POPRC(残留性有機汚染物質検討委員会)で議論された後にCOP(締約国会議)において決定されます。
また、POPs条約の規制対象となる化学物質は、規制内容によって附属書A〜Cの3つに分類されています。2023年5月時点で対象物質となっている化学物質の一覧は以下の通りです。
POPs条約対象物質 | |
附属書A(廃絶) |
上記を含む31個の化学物質 |
附属書B(制限) |
|
附属書C(非意図的生成物) |
*は附属書Aと重複 |
2023年5月時点では、重複する化学物質を除いて36種類の化学物質がPOPs条約の対象化学物質とされています。
加盟国に求められる義務
POPs条約の加盟国には、各附属書に応じた対応が義務付けられています。POPs条約加盟国に求められている義務は以下の7つです。
- 製造・使用、輸出入の原則禁止(附属書A)
- 製造・使用、輸出入の制限(附属書B)
- 新規POPs(附属書Dの要件を考慮してPOPsの特性を示す物質)の製造・使用防止のための措置
- 非意図的生成物(附属書C)の排出の削減及び廃絶
- ストックパイル、廃棄物の適正処理
- PCB含有機器については、2025年までに使用の廃絶、2028年までに廃液、機器の処理
- 適用除外(試験研究、製品中及び物品中の非意図的微量汚染物質、個別適用除外)
POPs条約の加盟国は、各附属書の化学物質に対して適切な対処をしなければいけません。そのため、日本国内でもPOPs条約の附属書に記載されている化学物質については、製造・使用・輸入を制限するなどの対応が求められます。
日本のPOPs条約への対応
日本は、2002年8月にPOPs条約へ加入しました。その後、POPs条約の第7条に基づき、2005年には国内実施計画を策定し、過去3回の計画見直しを行っています。国内実施計画には、以下のような内容が記載されています。
- POPsの製造、使用、輸入及び輸出を防止することを目的とした規制のための措置
- 非意図的生成物の排出削減のための行動計画
- ポリ塩化ビフェニルの廃絶のための取組
- 在庫及び廃棄物を特定するための戦略並びに適正管理及び処理のための取組
- 汚染された場所を特定するための戦略
- POPs条約附属書掲載物質以外の物質への対応
- POPsの環境監視のための取組
POPs条約は、国内におけるPFAS(有機フッ素化合物)等の化学物質規制に大きな影響を与えています。そのため、化学物質を取り扱う日本企業は、POPs条約に関する情報も理解しておくことが大切です。
PFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)とは
PFASの一種であるPFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)は、化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)で規制されている化学物質の一つです。ここでは、PFOSの概要と国内での規制内容について詳しく解説します。
PFOSの主な用途
PFOSは、撥水性や撥油性、耐熱性、科学的安定性などの物性を持っています。そのため、主に以下の用途で使用されてきました。
- 半導体工業
- 金属メッキ
- フォトマスク
- 写真工業
- 泡消火薬剤
ただし、現在はPFOSの製造や使用が原則禁止されているため、上記のような用途で使用されることはなくなりました。
PFOSが健康に及ぼす影響
PFOSが健康に及ぼす影響について、世界中で研究が進められています。動物実験では、肝臓の機能や仔動物の体重減少等に影響を及ぼすことが指摘されています。
また、人に対してはコレステロール値の上昇や発がん、免疫系との関連が報告されています。しかし、人の健康へ影響を及ぼす具体的な摂取量などについては、まだ確定的な知見はありません。
日本でのPFOS規制
PFOSは、2010年4月に化審法の第一種特定化学物質に指定され、一部例外用途以外での製造・使用・輸入が禁止に、2017年の改正で例外用途も廃止されました。
また、国内の水道水に関しては、2020年に「PFOS及びPFOAの量の和として50 ng/L」という暫定目標値が設定されています。
POPs条約におけるPFOSへの対処
現在、PFOSは附属書Bに該当するため、条約加盟国には「製造・使用、輸出入の制限」が義務付けられています。
一方、同じPFASの一種であるPFOAやPFHxSは附属書Aに該当しており、条約加盟国には「製造・使用、輸出入の原則禁止」が求められています。
同じPFASでも、PFOSとPFOAやPFHxSとでは該当する附属書が異なるため、POPs条約から求められる対応が若干異なる点に注意しましょう。
PFOSはPOPs条約で生産及び使用を制限されている
POPs条約とは、残留性有機汚染物質の製造及び使用の廃絶等を規定した国際条約です。日本も条約の加盟国であり、国内の規制内容に大きな影響を与えています。
現在、PFOSはPOPs条約の附属書Bに該当しており、日本国内では生産及び使用を禁止されています。
今後も国内の動向を知る上で、POPs条約に関する情報を把握しておくとよいでしょう。
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記事の監修者
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【参考資料】
- POPs条約(METI/経済産業省)
- POPs(Persistent Organic Pollutants:残留性有機汚染物質) | 保健・化学物質対策 | 環境省
- PFOS、PFOAに関するQ&A集 2023年7月時点|環境省
- 参考資料1 1 PFOS、PFOA に係る国際動向 1 POPs 条約等の検討状況
- 残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)の概要について|総務省消防庁
- 1.POPs 条約|国際的な動向について|環境省
- 残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約の新規対象物質を 化審法第一種特定化学物質に指定することについて(案)|(令和5年2月17日)厚生労働省
- 残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約 に基づく国内実施計画(令和2年11月改定) 環境省
- ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)及び ペルフルオロオクタン酸(PFOA)について|環境省
- ストックホルム条約 (残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約: Stockholm Convention on Persistent Organic Pollutants (POPs))|外務省