歯磨き粉はPFAS(有機フッ素化合物)入りで危険?怖がる必要はありません
投稿日:2024年4月2日
スーパーやドラッグストアに並ぶ歯磨き粉の中には、フッ素入りの製品があります。この表示を見て、含有されているフッ素がPFAS(有機フッ素化合物)ではないかと心配になる人がいるかもしれません。今回の記事では、フッ素入りの歯磨き粉でも、PFASについては心配しなくても良い点について、様々なデータを交えて解説します。
INDEX
歯磨き粉はPFAS(有機フッ素化合物)入りで危険?
歯磨き粉や歯科で行う虫歯予防のためのフッ素塗布に対し、「PFASが含まれるから危険」という風説が流布されています。しかし、これは大きな誤解です。
歯磨き粉に入っているのは無機フッ素化合物
そもそも、歯磨き粉や歯科で使うフッ素とPFASは異なる物質です。
歯磨き粉のフッ素は、無機フッ素化合物というフッ素とナトリウム・カルシウムなどの金属や非金属が結合した化合物であり、自然界にも存在するものです。
これに対し、PFASとは有機フッ素化合物のうち、ペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物を総称する際の呼び名であり、人工的に作られたものという違いがあります。
有機フッ化化合物とは、炭素とフッ素が組み合わさった物質であるのに対し、無機フッ化化合物には炭素が含まれていません。
その他の違いも含めて、表にまとめました。
大量に飲めば中毒の危険はある
歯磨き粉のフッ素は、普段使う程度の量であれば摂取しても特に問題ありません。
ただし、一度に大量のフッ素を摂取した場合、下痢や嘔吐、吐き気などの中毒症状を起こす可能性があるので注意が必要です。なお、体重1 kgあたり2 mg〜4 mgを摂取すると急性中毒の症状が現れるとされています。
つまり、体重15 kgのお子さんなら30mg ~120 mgのフッ素を摂取する計算です。仮に歯磨き粉のフッ素濃度が500 ppm(0.05 %)と考えると、60 g~240 gの歯磨き粉を一気に飲む必要が出てきます。
用法や用量を守ったうえで、いたずらでなめたりしないように気を付ければ、特に問題はないでしょう。
そもそもPFAS(有機フッ素化合物)って何?
歯磨き粉に入っているフッ素は、PFASとはまったくの別物です。ここからは、日常生活でPFASが使用される製品や規制の対象について簡単に解説します。
生活の様々なシーンで使われている
PFASは熱や薬品、紫外線に強く、水や油を弾く性質があることから、様々な生活用品に使われています。代表的なのは下記のような生活シーンで、衣食住にまつわる製品で使用率が高いことが報告されております。
参考:https://kokumin-kaigi.org/?page_id=9813&page=3
PFOS・PFOAは製造・使用禁止
PFASには約4,700種類以上の物質があり、中には発がん性が認められるなど人体への有害性が確認されたことから、製造・使用が禁止されたものがあります。
代表例がPFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)と、PFOA(ペルフルオロオクタン酸)です。特にPFOAに関しては、ヒト細胞や動物実験の結果により、がん発生のメカニズムへの関与が報告されています。
日本でも「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)」に基づき、2010年にはPFOS、2021年にはPFOAの製造・輸入等が禁止されました。今後これらの物質が新たに日本に入ってくることはありません。
ただし、禁止される以前に作られた製品・商品の使用は規制の対象となっていないのも実情です。国は事故などでPFOAやPFOSが外部に排出された場合、自治体への届出を行う決まりを作るといった対策を進めています。今後は情勢の変化に伴い、新しい規制が追加されていく可能性もあるかもしれません。
PFASも全体的に規制へ
PFOAやPFOSのように、人体に有害であると報告されているPFASはごく一部です。しかし、PFAS自体が自然界で分解されにくいため、環境への負荷を避ける観点から、日本を含めた全世界で国や公的機関による規制が行われています。
日本における代表的な規制の例が、水道水および水環境の暫定指針値の制定です。暫定的な目標値(暫定指針値)は50 ng/L以下(PFOS及びPFOAの合計値)に設定されました。これは、体重50 kgの人が一生にわたって水を毎日2 L飲んだとしても健康に影響を及ぼさない値とされています。
企業の間でも製品・商品にPFASを使わない取り組みが盛んになっています。2023年8月には、日本の化学メーカーなどでPFASフリーでありながら、同社の従来品と同等以上の性質を持つ環境配慮型の界面活性剤の商業生産を開始しています。
フッ素入りの歯磨き粉を怖がる必要はありません
歯磨き粉や歯科治療において使われるフッ素は、フッ化ナトリウムなどの無機フッ素化合物であり、炭素とフッ素の化合物であるPFASとは異なります。用法・用量を正しく守って使っている限り、特に危険性はありません。「フッ素入り歯磨き粉にはPFASが含まれているから危険」という風説に惑わされないように注意しましょう。
また、PFASについても正しく理解することが必要です。PFASのうち一部の物質には発がん性や毒性に関しての報告があり、自然界で分解されずに蓄積していく性質がある点を理解しましょう。約4,700種類の物質があり、環境や人体に対してどのような影響があるかも未解明の部分が多いため、ニュースや公官庁の発表などで情報収集を行い、引き続き動向を注視しましょう。
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記事の監修者
ユーロフィン日本環境株式会社 横浜PFAS事業部 PFASグループ Manager 高藤 晋 |
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<経歴> 2012年 University of Otago 微生物免疫学部卒 オタゴ大学では、食品微生物など、東海大学ではトランスジェニック植物を使用したホルモン作用の解析、横浜市立大学では植物ホルモン化合物の定量分析などを行っていた。 |
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【参考資料】
- PFASと歯科で使用する無機フッ素化合物について|公益社団法人 日本小児歯科学会 小児保健委員会
- PFOS、PFOAに関するQ&A集 2023年7月時点|環境省 PFAS に対する総合戦略検討専門家会議
- 有機フッ素と、無機のフッ素の違い|旭川歯科医師会だより
- 事故時の措置 水質汚濁防止法に基づく事故時の措置について|横浜市