PFOSとPFOAの用途は?安全性に対する懸念も併せて解説
投稿日:2024年6月4日
PFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)とPFOA(ペルフルオロオクタン酸)は、PFAS(有機フッ素化合物)の一種で、かつては生活用品や工業製品など幅広い目的で使用されていました。しかし、人体に対する影響や分解されにくく自然界に蓄積されやすい性質が懸念され、現在は日本を含めた世界各国で規制の対象となっています。
この記事では、かつてPFOSやPFOAがどのような用途で使用されてきたか、なぜ規制の対象になったかなどについて、詳しく解説します。
INDEX
PFOSとPFOAとは?
最初に、PFOSとPFOAに関する基本的な知識を解説します。
どちらもPFASの一種
PFOSおよびPFOAは有機フッ素化合物の一種で、炭素とフッ素が強力に結合しているのが大きな特徴となっています。
PFOSとPFOAの用途
PFOSとPFOAは、疎水性と疎油性の両方の性質を併せ持つ物質であるため、幅広い用途で使われてきました。フライパンや衣類用の防水スプレーなど、身近な生活用品にも用いられた歴史を持ちます。
PFOSおよびPFOAの主な用途は、以下の通りです。
PFOS | 半導体工業、金属メッキ、フォトマスク(半導体、液晶ディスプレイ)、写真工業、泡消火剤など |
PFOA | 繊維、医療、電子基板、自動車、食品包装紙、石材、フローリング、皮革、防護服など |
PFOSとPFOAの製造・使用・輸入はなぜ禁止されたのか
PFOSは2010年、PFOAは2021年の時点で「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)」に基づき、日本国内での製造・輸入等が原則禁止されています。そのため、今後出回る商品・製品に使用されている可能性は極めて低いでしょう。
ここでは、なぜPFOSとPFOAの製造・輸入・使用が禁止されたのか、理由を詳しく解説します。
人体に対する影響が指摘されている
1つ目の理由は、人体に対する影響が指摘されていることです。
WHO(世界保健機関)傘下の一機関であるIARC(国際がん研究機関)は、PFOSおよびPFOAについて発がん性を指摘しています。
物質 | 一連の科学的根拠 | 総合評価 | ||
人に対する発がん性(ヒトの疫学研究) | 動物に対する発がん性(ラットやマウスなどの動物試験) | 発がんの機序(発がん性物質としての主要な特性) | ||
パーフルオロオクタン酸(PFOA) | 限られている(腎細胞がん、精巣がん) 不十分(その他のがん種) |
十分 | 強い ・暴露されたヒト ・ヒト初代培養細胞 ・実験系 |
グループ1 Carcinogenic to humans (ヒトに対して発がん性がある) |
パーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS) | 不十分 | 限られている | 強い ・暴露されたヒト ・ヒト初代培養細胞 ・実験系 |
グループ2B Possibly carcinogenic to humans (ヒトに対して発がん性がある可能性がある) |
出典:PFOA(パーフルオロオクタン酸)及びPFOS(パーフルオロオクタンスルホン酸)に対する国際がん研究機関(IARC)の評価結果に関するQ&A|食品安全委員会
この結果はあくまでがんを引き起こす可能性に対する科学的根拠の強さを示したもので、摂取したからといって必ずがんを引き起こすという意味ではありません。
しかし、PFOSやPFOAとコレステロール値の上昇、免疫系等の関連が指摘されており、世界でもその有害性が問題視されています。
出典:Emerging chemical risks in Europe — ‘PFAS’ — European Environment Agency (europa.eu)
現状、日本においてPFOSやPFOAの摂取による健康被害は報告されていませんが、PFASについての最新情報や研究データ等の動向を注視しましょう。
分解されにくく、蓄積されやすい
2つ目の理由は、PFOSやPFOAを含む有機フッ素化合物自体が、環境中に分解されにくく蓄積されやすい性質を有していることです。除去が非常に難しいため、日本を含めた世界各国での製造・使用・輸入の禁止につながっています。
PFASは炭素とフッ素が非常に強い力で結びついているため、自然界では分解されません。環境中に長期間残り続けることから「永遠の化学物質(フォーエバー・ケミカル)」とも言われています。
既にEU・アメリカなど諸外国ではかなり厳しい規制や健康勧告値が敷かれ始めており、今後さらに厳しさを増す可能性は十分にあるでしょう。
諸外国での規制などについては、こちらの記事も参考にしてください。
【関連記事】有機フッ素化合物の毒性と環境への影響は?各国の規制も解説
日本では水道水のモニタリングを継続中
日本でも泡消火剤が使われていた米軍基地の周辺や、PFOS、PFOAの製造・使用を行っていた工場の周辺で、水道水から高濃度のPFAS物質が検出されたというニュースを見たことがあるかもしれません。
すでに環境省は、全国の自治体と連携して水道水におけるPFOS及びPFOA濃度のモニタリングを行っています。暫定的な目標値(暫定指針値)は50 ng/L以下(PFOS及びPFOAの合計値)です。この目標値は、体重50 kgの人が亡くなるまで毎日水を2 L飲んだとしても、特段健康に悪影響を及ぼさないと考えられる水準をもとに設定されています。
また、2024年3月16日には、環境省がPFASをめぐり、水道水や生活用水の水源などで高濃度検出された場合の具体的な除去技術をまとめた指針を、2024年夏ごろに策定するという報道がなされました。具体的な内容は現段階では明らかになっていませんが、動向を注視していきましょう。
PFOS・PFOAフリーの製品が進んでいる
PFOS・PFOAは油や水をはじく性質があるため、その特性を活かしてさまざまな商品・製品に使われてきました。しかし、人体や環境への影響が懸念され、日本を含む各国で規制の対象となったことから、PFOS・PFOAフリーの製品を生産する企業、生産するための技術を開発する企業が増えています。
加えて、EUがPFOS・PFOA以外の物質も含むPFASを全面的に禁止する規制の採択を目指しています。PFASフリーにどこまで対応できるかが、今後の企業における課題の一つになるでしょう。
ユーロフィンのPFAS分析については
こちらからお問い合わせください
記事の監修者
PFAS分析を行うユーロフィングループのネットワークを活かして、国内外の様々なPFASにまつわる情報を配信しています。 |
関連記事
1万種類以上あるとされる有機フッ素化合物、その中のPFOSについて、特徴や規制の内容、社会背景について詳しく解説。 |
|
PFOAとは?人体への影響や各国の動向、法規制の情報について 1万種類以上あるとされるPFAS(有機フッ素化合物)。その中のPFOA(ペルフルオロオクタン酸)について規制状況なども含めて詳しく解説。 |
【参考資料】
- ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)及びペルフルオロオクタン酸(PFOA)について|環境省
- 有機フッ素化合物(PFOS・PFOA) | 安全・安心な水を届ける沖縄県企業局
- PFOS、PFOAに関するQ&A集 2023年7月時点|環境省
- PFOA及びPFOSに対するIARCの評価結果に関するQ&A | 食品安全委員会
- PFAS(有機フッ素化合物)汚染|ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議
- ダイキン周辺でPFOA検出続く 大阪府摂津市、市民団体は対策要求|朝日新聞デジタル
- EUにおける化学物質規制の動向 (2023年6月22日 No.3595) | 週刊 経団連タイムス
- 米政府、飲料水のPFAS基準厳しく 日本の1割未満の新規制|日本経済新聞
- 有機フッ素化合物に関するQ&A - 神奈川県ホームページ
- 有機フッ素、夏に除去指針 各地で検出、健康影響懸念(共同通信)