PFAS(有機フッ素化合物)とは?問題視される理由や具体的な規制を解説
投稿日:2024年4月24日
昨今、ニュースで時折取り上げられるキーワードに「PFAS(ピーファス)」があります。日本語では「有機フッ素化合物」といいますが、あまり耳慣れない言葉なので、なぜ報道されるのかよく分からない人もいるかもしれません。この記事では、PFASが問題視される理由や具体的な規制について詳しく解説します。
PFASとは有機フッ素化合物のこと
PFASとは、炭素とフッ素を人工的に合成して作った物質で、約1万種類以上が存在するとされています。PFASは有機フッ素化合物であり、歯科医院などでの治療薬や歯磨き粉に配合されている無機フッ素(フッ化ナトリウム)とは全く別の物質です。
様々な製品・用途に使われている
PFASは熱や薬品に強く、水や油を弾くという性質があるため、フライパン等の生活雑貨や衣類等の織物製品、医療機器、半導体製造用製品、建築用製品、潤滑剤など、様々な用途で使われてきました。
家の中にPFASが含まれる製品が一つはあるはずといっても過言ではないくらい、日常生活に浸透している物質なのです。
PFASが問題視されている理由は?
日常生活において広く使用されているにもかかわらず、PFASが問題視され、規制が強化されている理由について詳しく解説します。
PFAS=危険ではない
大前提として、全てのPFASが人体に有害なわけではありません。例えば、フッ素加工のフライパンのコーティング剤として使われているPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)もPFASの一種ですが、発がん性などの有害性は指摘されていません。
ただし、PFAS自体が自然界に存在しない物質であること、分解されずに土や水の中に残留・堆積していく特性から、世界各国で規制する動きが高まっています。
一部のPFASには悪影響が認められる
一部のPFASは、人体に対する悪影響が認められるのも事実です。
PFASのうち、PFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)とPFOA(ペルフルオロオクタン酸)については、発がん性があるとして、すでに日本を含めた世界各国で輸入・製造が禁止されています。
その他にも、以下の健康に対する影響も指摘されています。
アメリカではPFAS汚染訴訟が多数提起
PFASによる水、土地の汚染が早くからクローズアップされてきた国の一つがアメリカです。同国では、PFOSやPFOAを製造・使用してきた工場・施設の周辺に住む住民や自治体による、工場・施設の運営会社を相手取った訴訟が多数提起されています。
2023年6月には、大手化学メーカー・A社のPFASによる飲料水汚染の責任をめぐり、アメリカ国内の多数の自治体が提起した訴訟について、最大1.8兆円の和解金を支払う案で暫定合意したと報道されました。
PFASによる健康被害
現段階では、日本において、PFOS及びPFOAの摂取を原因とした個人の健康被害の発生報告はありません。
しかし、アメリカでは大手化学メーカー・B社の周辺住民7万人に行った調査により、以下の6つの病気について発症率が上昇するという結果が確認されました。
- 脂質異常症(高コレステロール症など)
- 妊娠性高血圧
- 腎臓がん
- 精巣がん
- 潰瘍性大腸炎
- 甲状腺疾患
日本では環境省が「PFOAを体内に取り入れたことが主な要因とみられる健康被害は確認されておらず、どの程度の量が身体に入ると影響が出るのかについては、いまだ確定的な知見はない」という見解を示しています。
PFASをめぐる世界と日本の規制
一部のPFASには発がん性などの有害性が認められること、PFAS自体が環境中で分解されにくいことが理由となり、世界各国でPFASに対する規制が強まっています。
具体的にどのような規制が行われているのか、世界各国の実情について解説します。
国によってばらつきがあるのが現状
世界中でもかなり早い段階で規制に取り組んできたのがアメリカです。2009年から水道水の暫定健康勧告値を設定するなどの規制を整備してきました。
その後、2020年の大統領選でジョー・バイデン氏がPFASの規制強化を公約に掲げて当選し、さらなる規制の強化を進めています。一例として、2023年3月には飲料水中のPFASについて国家統一基準案が発表されました。
一方、EUにおいてもPFAS全般を対象とする規制の採択を見据え、2023年3月から9月までパブリックコメントの募集が行われました。実際の採択は2025年頃と想定されています。
日本においては、化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)により、2010年にPFOS、2021年にPFOAの製造、輸入が原則禁止されました。また、飲料水中のPFOS及びPFOAの合算値を50 ng/Lとする暫定目標値が定められています。
今後は情勢の変化に伴い、新たな規制が追加されていく可能性は十分にあるでしょう。
PFASに関する注目度の高いトピック
その他にも、PFASについては注目度の高いトピックがあります。ここでは、以下の3つについて解説します。
環境中のPFAS量の今後の動向
環境中のPFASの量は、今後は減っていくものと考えられます。例えば、PFOSやPFOAは、2024年現在すでに製造・輸入が原則禁止されているため、今後日本で増えることは考えにくいでしょう。
すでに製造・輸入されたPFOSやPFOAについても、国が定めた基準に従い、厳重な管理が義務付けられています。
また、環境省も定期的に一般環境中におけるモニタリング検査を実施していますが、環境中のPFOS、PFOA濃度は減少傾向にあることが分かりました。
体内に入ったPFASは残留し続けるのか
PFASが体内に入っても、永久に体内に残留するわけではありません。代謝されにくい性質はありますが、消化管から体内に吸収された場合でも、ゆるやかに体内から排出されていくと考えられます。
EFSA(欧州食品安全機関)によれば、新たな摂取がないと仮定した場合の半減期は以下の通りです。
家庭用消火器のPFOS、PFOAの有無
一般的な家庭用消火器は粉末消火器であるため、PFOSやPFOAは使用されていません。ホームセンターなどで販売されている業務用消火器も粉末消火器が大半であるため、PFOSやPFOAが含まれている可能性も低いでしょう。
なお、一般社団法人日本消火器工業会のホームページから、PFOS・PFOAを含む消火器の型式番号が調べられます。
PFASの知識を深めて日常生活に活かそう
PFAS自体は日常生活で広く使われているものであり、発がん性などの有害性が確認されているものはごく一部です。必要以上に恐れる必要はありませんが、心配な人は念のため以下の点に気を付けて生活しましょう。
- 井戸水は飲まない
- 水道水を飲むときは浄水器を通す
- 海外旅行ではミネラルウォーターを買って飲む
- 自治体の広報やテレビ、Webのニュースをチェックする
- PFASフリーの商品を選んで買う
また、自身でもインターネットや書籍等のツールで情報収集を行い、知識を深めるのも日常生活に役立つでしょう。
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記事の監修者
ユーロフィン日本環境株式会社 品質保証グループ 第三者分析機関としての信頼性や適合性を担保するために、品質システムの整備や監視活動に従事。特に、当社では分析実施項目の大部分でISO/IEC 17025の認定を取得し、PFASについてもISO/IEC 17025認定を取得しており、それら認定の維持管理を主要業務としている。また、国内外のグループ会社と連携した相互監査や技能試験評価、品質会議など、世界中に展開しているEurofinsグループの強みを活かした取り組みも実施。 |
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【参考URL】
- PFOA(パーフルオロオクタン酸)及びPFOS(パーフルオロオクタンスルホン酸)に対する国際がん研究機関(IARC)の評価結果に関するQ&A|食品安全委員会
- PFOS、PFOA に関するQ&A集 2023 年7月時点| 環境省 PFASに対する総合戦略検討専門家会議
- EUにおける化学物質規制の動向|一般社団法人日本経済団体連合会