PFASの一種であるPFBSとは?特徴と規制の動向について
投稿日:2024年10月31日
PFBS(ペルフルオロブタンスルホン酸)は、様々な製品の製造・加工等に使用されている化学物質です。しかし、PFBSが持つ特徴や有害性への懸念から、米国やEUの一部の法律では規制対象になっています。この記事では、PFBSの特徴と規制に関する最新動向について解説します。
INDEX
PFBSの特徴とは?
PFBSは撥水性や撥油性などの特徴を持った化学物質で、防水剤などの用途で広く使用されています。ここでは、PFBSの特徴や用途について詳しく解説します。
PFBSはPFASの一種
PFBSは、1万種類以上あるPFAS(有機フッ素化合物)の一種です。PFASは別名「永遠の化学物質」と呼ばれており、自然環境中で分解されることなく半永久的に残存し続ける特徴を持った化学物質群です。
高い撥水性・撥油性を持つことから、これまでに多くの製品製造の過程で使用されてきました。
しかし、一部のPFASには環境への影響や、人体への有害性、発がん性などが懸念されており、国際的に規制が議論されています。
日本でも化審法(化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律)により、PFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)や、PFOA(ペルフルオロオクタン酸)といった一部のPFASの製造や輸入を規制しています。
PFASについて、より詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
【関連記事】PFAS(有機フッ素化合物)とは?問題視される理由や具体的な規制を解説
PFBSの用途
PFBSは、POSF(パーフルオロオクタンスルホニルフルオリド)という化学物質の製造中に副産物として生成され、消費者製品に不純物として存在していました。POSFは、PFOSを生成するための前駆体物質として利用されることが多かった物質です。
その後、国際的にPFOSが規制され始めた後にPFBSが代替物質として使用された経緯があります。PFBSは撥水性や撥油性に優れており、主に塗料や洗浄剤、防水製品、コーティング製造などの用途で使用されてきました。
PFBSが環境や人体に及ぼす影響
PFBSが環境や人体に及ぼす影響については、現在も世界中で研究が継続されている最中です。ただし一部では、PFBSが人体に及ぼす影響や曝露経路などに言及している調査データもあります。
ここからは、現段階で分かっているPFBSの情報から、環境や人体に及ぼす影響について解説します。
PFBSの潜在的な発生源と曝露経路
PFBSは、工場や消防・衝突訓練場、排水処理施設からの放出などによって水生環境に流入する可能性があります。また、PFBSは水溶性なので、水面からの揮発による拡散については考えられていません。
PFBSは、飲料水や地下水などからも検出されており、魚介類や野菜を含む食品に含まれていることも確認されました。また、ほこりやカーペットクリーナー、床ワックス、食品包装、屋内外での床材に含まれていることも確認されています。
多くの研究で、飲料水などの経口摂取で曝露する可能性に関して示唆されていますが、粉塵の吸入や経皮経路による曝露については、まだ不確実性があるとされています。
PFBSの毒性評価
EPA(米国環境保護庁)が公開しているPFBSのファクトシートでは、PFBSが健康へ与える影響について、PFBSの曝露が甲状腺、発達、腎臓への影響との関連が特定されたことが指摘されています。
PFBSの最終毒性評価の一環として、他の物質が人間や動物に及ぼす影響に関する実験が行われています。
PFBS曝露後の健康への影響としては、生殖系、肝臓、脂質及びリポタンパク質の恒常性への影響が評価に含まれていました。
しかし、曝露と影響の明確な関連性を裏付ける証拠はありませんでした。
参照:Drinking Water Health Advisory:Perfluorobutane Sulfonic Acid (CASRN 375-73-5)andRelated Compound Potassium PerfluorobutaneSulfonate(CASRN 29420-49-3)
日本国内でPFBSの規制は定められていない
2024年8月時点では、日本国内の化学物質を規制する法律である化審法や、水道水・地下水の水質指標値において、PFBSは規制対象になっていません。
ただし、環境省の資料「PFASに関する今後の対応の方向性(令和5年7月)」では、今後はPOPs条約(残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約)の規制対象になっていない物質も評価していく方針が記載されています。
POPs条約とは、残留性有機汚染物質を規制する国際的な条約です。2024年8月時点ではPOPs条約でもPFBSに対する規制はありません。
環境省が公開している資料の記載から、将来的にPFBSが規制対象となる可能性もゼロではないでしょう。
PFBSに対する各国の規制動向
現在、日本ではPFBSに関する規制がありませんが、米国やEUでは飲料水に含まれるPFBSの規制が始まっています。ここでは、PFBSに対する各国の規制動向について解説します。
米国のPFBS規制動向
EPAでは、国内の飲料水基準でPFBSについて以下のように記載しています。
化学薬品 | 最大汚染レベル(MCLG) | 最大汚染物質レベル(MCL) |
2つ以上の混合: PFNA、PFHxS、HFPO-DA、及びPFBS |
Hazard Index of 1 | Hazard Index of 1 |
引用:EPA「PFAS National Primary Drinking Water Regulation」
最大汚染レベルとは、飲料水中の汚染物質が基準以下の数値であれば、健康に対するリスクが知られていない、もしくは予測されないことを意味します。一方、最大汚染物質レベルとは、飲料水に許容される汚染物質の最高レベルです。
また、Hazard Index(ハザード・インデックス)は、化学物質の混合物への暴露に関連する健康上の懸念を判断するために、EPAが古くから使用しているアプローチです。
EPAのハザード・インデックスMCLは「1」に設定されており、PFNA(ペルフルオロノナン酸)、PFHxS(ペルフルオロヘキサンスルホン酸)、PFBS、及びHFPO-DA(GenX化合物)の2種類以上を含む混合物に適用されます。
これらのPFASは様々な混合物中に同時に存在することが多く、混合物への暴露は相加的に健康に影響を与える可能性があると研究で示されています。
米国では州ごとに独自の水道水規制を進めており、州によっては1 Lに含まれるPFBSの数値を具体的に決めて規制している場所もあります。
EUのPFBS規制動向
EU域内における化学物質を規制する法律であるREACH規則では、SVHC(高懸念物質リスト)にPFBSが含まれています。
SVHCに含まれる化学物質を0.1 重量%を超える濃度で含有する製品の生産者または輸入者は、ECHA(欧州化学品庁)に対する届出や安全データシート(SDS)などを提出しなければいけません。
PFBSの規制動向をチェックして早めに対策しましょう
PFBSは現在日本での規制は始まっていませんが、米国やEUの一部の国では規制対象になりつつあります。現状、米国やEUと輸出入を行っている企業は注意が必要です。
将来的に海外・国内でPFBSの規制が強化される可能性もゼロではありません。海外と国内の最新動向に注意しつつ、早めの対策を心がけましょう。
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記事の監修者
ユーロフィン日本環境株式会社 ラボラトリー事業部 POPsグループ PFAS・PCBチーム 藤田 潤 |
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<経歴> 2021年 神奈川大学 理学部 卒業 クルマエビの卵巣成熟度を評価する新たな指標遺伝子の探索について研究を行う。 <発表> 2023年9月 第30回日環協・環境セミナー全国大会「水中の揮発性PFAS分析法の検討」 |
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【参考資料】
- EPA|Drinking Water Health Advisory:Perfluorobutane Sulfonic Acid (CASRN 375-73-5)andRelated Compound Potassium PerfluorobutaneSulfonate(CASRN 29420-49-3)
- EPA|Per- and Polyfluoroalkyl Substances (PFAS)Final PFAS National Primary Drinking Water Regulation
- EPA「PFAS National Primary Drinking Water Regulation」
- ECHA|Candidate List of substances of very high concern for Authorisation
- 環境省|PFAS に関する今後の対応の方向性令和5年7月・PFAS に対する総合戦略検討専門家会議