PFHxSとは?輸入が禁止される理由と対策について
投稿日:2024年4月2日
残留性有機汚染物質(以下 POPs)の地球的な規模での拡散が深刻化する中、国際的な条約が締結され、DDT、ダイオキシン類やPCBなどのPOPsが規制されてきました。
規制対象物質は逐次増やされていますが、ここ10数年の中で新たに追加され、世界中で規制する動きが強まっている物質がPFAS(有機フッ素化合物)です。
PFASの中で有害性が明確となった物質として、PFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)は2009年に、PFOA(パーフルオロオクタン酸)は2022年に第一種特定化学物質に指定され、製造及び輸入が禁止されましたが、日本の新たな動向として注目を集めているのが、第一種特定化学物質へ新たに追加されたPFHxS(ペルフルオロヘキサンスルホン酸)です。
しかし、そもそもPFHxSの特徴や人体への影響について詳しく知らない方も多いのではないでしょうか。
PFHxSについて理解することで、製造及び輸入が禁止される背景や対策法も明らかになります。本記事では、PFHxSの法規制等について詳しく解説します。
INDEX
PFHxS(ペルフルオロヘキサンスルホン酸)とは
PFHxSとは、PFASの一つです。PFASは、熱に強い、水や油を弾く、燃えにくく汚れにくいなどの特徴を持っており、消化器の消火剤や自動車のコーティング材などに使用されてきました。
しかし、PFASは炭素とフッ素が非常に強い力で結びついているため、自然界で分解されずに水中や土壌に蓄積され続けてしまいます。また、体内に取り込んだ場合にも、体から排出されることなく体内に蓄積し続ける特性もあります。
近年、PFASによる人々への有害性が報告され、世界中でPFASを規制する動きが強まりました。PFASの中でも、特にPFOAとPFOSの規制が強まる中、それらの代用品として利用されてきたものの一つがPFHxSです。
PFHxSの読み方は?
化学に詳しくない方は、そもそも「PFHxS」の読み方がわからない方も多いでしょう。PFHxSの正式名称は「ペルフルオロヘキサンスルホン酸」です。
しかし、正式名称が長すぎるため、科学者の間では通称「ピーエフヘキサエス」あるいはそれを省略して「ヘキサエス」と呼ばれています。
PFHxSが健康に与える影響
PFHxSが人体へ与える影響については、世界中で研究されています。しかし、研究結果に一貫性がなく、まだ不明な部分も多いようです。
一方で、2023年1月に出された環境省の参考資料「PFHxS及びその塩の有害性の概要」によると、動物へのPFHxS投与実験において、甲状腺への影響、肝臓への影響、神経伝達系への影響などが観察された報告があります。
健康に与える影響について不明な点も多いようですが、動物実験では有害性が示されていることから、人体への影響が全くないとも言いきれない状況です。健康への影響については、今後も国内外で研究が続けられていくため、最新情報に注目していきましょう。
PFHxSが含まれているもの
PFHxSをはじめとしたPFASで加工した製品は、撥水性と撥油性に優れており、熱に強く、耐久性が高い特徴があります。そのため、防水加工剤や消火剤として多く利用されています。2023年2月に厚生労働省が公開した資料では、PFHxSが含まれているものとして以下の製品が紹介されています。
PFHxSの主な用途 |
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参考:厚生労働省「ペルフルオロヘキサンスルホン酸とその塩が使用されている製品で輸入を禁止するものの指定等について」
上記の資料から、日常生活で何気なく利用している製品にもPFHxSが使用されていることが分かります。生活と密接に関わる製品にも、PFHxSが含まれている可能性があることを理解しましょう。
PFHxSは水道水にも含まれるの?
2018年度と2019年度に環境省が実施した河川水、地下水等、環境中の化学物質環境実態調査において、全調査地点中の9割以上でPFHxSが検出されました。また、各地方公共団体等が実施した水質調査においてもPFHxSの検出事例が報告されています。
これらの状況を受け、「PFOS及び PFOAと同様の性質を持ち、水道水の原水等からも検出されている状況を踏まえると、要検討項目に追加し、今後、有害性評価や検出状況に関する情報・知見の収集に努めていくことが適当と考えられる。」との判断から、PFHxSは蛇口の水で満たすよう設定された水質基準の「要検討項目」として位置付けられました。ただし、具体的な基準値や目標値は設定されていません。
PFHxSを含むPFASが環境水に含まれる原因として、地上でPFHxSを含む製品を使用した際にPFHxSが土壌に入り込んで蓄積し、地下水などへ流れ込むことで環境中に拡散していると考えられています。
PFHxSの輸入規制とは
PFHxSは、2024年2月に第一種特定化学物質に指定され、6月から輸入禁止となることが決定しています。ここでは、化審法におけるPFHxSの扱いと輸入規制について詳しく解説します。
化審法におけるPFHxSの扱い
化審法とは、「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」の通称で、人の健康や動植物に支障を及ぼす恐れがある化学物質を規制するための法律です。
2023年11月28日に「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律施行令の一部を改正する政令」が閣議決定され、PFHxSが化審法の第一種特定化学物質に追加されることが決定しました。
第一種特定化学物質とは、自然による分解が困難で長期的で慢性的な毒性を有する化学物質のことです。
第一種特定化学物質となった場合、製造や輸入の原則禁止、使用の制限、政令指定製品の輸入制限や第一種取扱事業者に対する基準適合義務及び表示義務等が規定されます。
2024年6月以降に輸入が規制される製品
2024年6月1日以降、製造とPFHxSを使用している指定の製品の輸入が禁止されます。PFHxSを使用した製品による人体への悪影響や環境汚染を未然に防止することが目的です。実際に輸入が規制される製品は以下をご参照ください。
第一種特定化学物質が使用されている場合に輸入することができない製品の指定 |
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引用:経済産業省「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律施行令の一部を改正する政令が閣議決定されました」
PFHxSの正しい知識を身につけて対策しよう
この記事では、PFHxSの輸入規制や日本国内での状況について解説しました。
PFHxSは、PFOAやPFOSの代用品として利用されてきましたが、2024年2月以降は第一種特定化学物質に指定され、輸入や製造に関する規制が厳しくなります。ただし、人体への有害性について不明な点も多く、明確な水質基準値も定められていません。
PFHxSに対して過度な危機感を抱くのではなく、正しい知識を身につけて冷静に対処することが大切です。
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記事の監修者
ユーロフィン日本環境株式会社 横浜PFAS事業部 PFASグループ 技術顧問 関 友博 |
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<経歴> 1986年 岩手大学農学部農芸化学科卒業 1990年 株式会社カナポリ入社(後の日本環境株式会社) 2011年からは東日本大震災に伴う放射線・放射能の調査・測定・分析体制の立上げ、2012年には遺棄化学兵器処理に関わる環境管理のコンサルティング業務を統括。 ユーロフィングループの傘下に入ってからは、ユーロフィンジャパン全体の環境・食品部門の品質管理を行い、現在はPFAS分析の立上げや国内分析法・EPA Method・ISO法等の導入を指導。 |
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【参考資料】
- 環境省 ペルフルオロヘキサンスルホン酸(PFHxS)について
- 厚生労働省 「ペルフルオロヘキサンスルホン酸とその塩」が使用されている製品で輸入を禁止するものの指定等について(案)
- 環境省 PFHxS及びその塩の有害性の概要
- 経済産業省 「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律施行令の一部を改正する政令」が閣議決定されました
- 厚生労働省 令和4年度第2回水質基準逐次改正検討会議事録