POPs(残留性有機汚染物質)とは?対象物質や規制内容について解説
投稿日:2024年6月26日
POPs(残留性有機汚染物質)は、国境を越えて多くの人々の健康に影響を及ぼすため、世界中で規制が強化されている化学物質です。日本国内においてもPOPsへの規制は強化されつつあるため、国内の規制内容や対象物質について理解を深めることが重要です。この記事では、POPsの概要と規制内容について解説します。
INDEX
POPs(残留性有機汚染物質)とは
POPs(残留性有機汚染物質)とは、環境中で分解されにくく、生物の体内に蓄積されやすい性質を持つ化学物質のことです。代表的なものとして、以下のような化学物質が挙げられます。
- ダイオキシン類
- PCB(ポリ塩化ビフェニル)
- DDT(有機塩素系殺虫剤)
- PFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)
- PFOA(ペルフルオロオクタン酸)
複数の化学物質が含まれるPOPsは、いずれも共通の特徴と問題点を持っており、多くの国や地域の人々に影響を及ぼしています。
POPsの特徴
POPsには、以下の4つの特徴があります。
- 難分解性|長期間そのままの状態で残る
- 長距離移動性|土壌、水、空気を介して環境全体に広く分布する
- 生物蓄積性|生物の体内に蓄積し、食物連鎖によって高濃度になる
- 有毒性|人間・野生動物にとっても有毒
POPsは、自然環境で分解されにくい物質です。そのため、国境を越えて長距離を移動し、広い範囲で人間やその他生物に悪影響を引き起こします。
その長距離移動性の例として、PCB(ポリ塩化ビフェニル)を製造したことも使用したこともないイヌイットの血液から、PCBが検出された事例も確認されています。
POPsの問題点
POPsは広範囲に分布し、食物連鎖を通じて生物の体内に蓄積します。これにより、人間を含む多くの生物が長期的かつ持続的に曝露され、急性及び慢性的な毒性の影響を受けます。
特に食物連鎖の上位になるほど蓄積されるPOPsの濃度が高くなるため、人間の体内に蓄積される濃度は高くなります。
一部のPOPsは内分泌かく乱物質とも考えられており、曝露された個人及びその子孫の生殖器系・免疫系に損傷を与える可能性があります。また、がんのリスクを高める要因にもなるため、注意が必要です。
POPs条約(残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約)とは
「POPs条約(残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約)」とは、全世界的にPOPsを規制する条約です。現在、多くの国がPOPs条約に加盟しており、世界中でPOPsを規制する動きが強まっています。
POPs条約の概要
POPs条約は、世界的に影響を及ぼすPOPsから人間の健康と環境を保護することを目的に定められた条約です。
2001年5月に開催されたストックホルム条約の全権会議で採択され、2004年5月に発効されました。その後に9回の会議が開催され、2019年に出された改訂版が最新版となっています(※2024年5月時点)。
2024年5月時点では186の国が加盟しており、各国がPOPsから人々の健康を守るために尽力しています。
POPs条約の対象物質
POPs条約の規制対象となる物質は以下の4つの附属書に分類され、それぞれ取り扱いが異なります。
- 附属書A|製造・使用、輸出入の原則禁止
- 附属書B|製造・使用、輸出入の制限
- 附属書C|排出の削減及び廃絶
- 附属書D|新規POPsの製造・使用防止のための措置
2024年5月時点で、実際に排出の削減や廃絶を実施する附属書A〜Cに該当する化学物質は、39物質(附属書A 30物質、附属書B 2物質、附属書C 7物質)となっています。
POPsに対する国内の対応
POPs条約の加盟国である日本では、POPsに対する独自の対策として国内実施計画を立てています。日本の国内実施計画の中でも近年特に注目されているのが、PFAS(有機フッ素化合物)に対する規制です。
POPs条約に基づく国内実施計画
日本は2002年8月にPOPs条約に加入しました。条約第7条において、加入した国は2年以内に国内実施計画を作成することが定められているため、2005年には国内実施計画を策定しています。
その後、条約の規定や締約国会議の議決に基づいて見直しと改定を実施。2024年5月時点では、2020年の改定が最新版となっています。
国内実施計画では、以下のような内容が決められています。
PFASに対する規制
2010年に「化審法(化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律)」において、PFOS又はその塩を第一種特定化学物質に指定し、使用を制限しました。その後、2018年4月以降全ての製品の製造への使用も全面的に禁止されています。
また、PFOS又はその塩を含有する泡消火薬剤等については、既に相当数量が全国の様々な箇所に配備されており、2020年3月時点では総数量約18 tが特定されています。
これらの製品については、今後速やかに代替製品に取り替えることが望ましいものの、短期間での取り替えは困難であるため、厳格な管理の下で取り扱われることが決められています。
POPs対象物質の調査を実施しましょう
日本はPOPs条約の加盟国であるため、国内で実施する残留性有機汚染物質への規制内容は、POPs条約の影響を大きく受けています。
POPsの問題は世界各国で取り組むべき課題として、今後も注目度は高いでしょう。海外の規制動向などを踏まえ、日本国内でもPOPs規制が強化される可能性は高いと予想されます。
POPs条約の規制対象となる化学物質を取り扱う機会がある企業は、規制の動向に注意しつつ、対象物質の調査を実施しておくと安心です。
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記事の監修者
ユーロフィン日本環境株式会社 第三者分析機関としての信頼性や適合性を担保するために、品質システムの整備や監視活動に従事。特に、当社では分析実施項目の大部分でISO/IEC 17025の認定を取得し、PFASについてもISO/IEC 17025認定を取得しており、それら認定の維持管理を主要業務としている。また、国内外のグループ会社と連携した相互監査や技能試験評価、品質会議など、世界中に展開しているEurofinsグループの強みを活かした取り組みも実施。 |
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【参考資料】
- 残留性有機汚染物質(2021年3月作成)|環境省
- Stockholm Convention on Persistent Organic Pollutants|UNEP
- 残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約 2019年改正版(仮訳)|環境省
- POPs条約|経済産業省
- 残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs 条約)の概要(令和5年12月15日)|経済産業省
- 残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約 に基づく国内実施計画(令和2年11月改定)|環境省