PFASの毒性評価とは?海外と日本での最新の評価内容について解説
投稿日:2024年7月24日
PFAS(有機フッ素化合物)は、人間の健康に影響を及ぼす可能性が示唆されており、現在世界各国で様々な規制が進んでいる化学物質です。しかし、PFASの毒性についてはまだ分かっていないことも多く、現在も世界中で研究が進められています。この記事では、国内外で進められているPFASの毒性評価について詳しく解説します。
INDEX
PFAS(有機フッ素化合物)の特徴
PFAS(有機フッ素化合物)は、撥水・撥油性や、熱・化学的安定性などの物性を示す化学物質です。それらの特性を活用し、撥水・撥油剤や調理器具のコーティング剤などの用途で幅広く使われてきました。
しかし、一度環境中に放出されたPFASは、分解されることなく長期間残存し続け、生物の体内にも蓄積し続ける特徴を持っています。最新の研究では一部のPFASが人間の健康に影響を及ぼす可能性が示唆されており、世界中でPFASを規制する動きが強まっています。
国内で実施しているPFASの毒性評価
内閣府の食品安全委員会では、「有機フッ素化合物(PFAS)ワーキンググループ」を立ち上げ、定期的にPFASの健康影響評価を実施しています。
このワーキンググループでは、全国各地の大学から環境健康科学や医学などの各専門分野の有識者が集まり、PFASの食品健康影響評価や飲料水規制などについて議論が行われています。
食品健康影響評価におけるPFAS毒性評価
食品安全委員会の有機フッ素化合物(PFAS)ワーキンググループは、2023年2月27日に第1回目が実施され、2024年現在までに計8回開催されています。ここからは、会議内での議題やPFASの毒性評価について解説します。
健康に対する影響
ワーキンググループでは、健康影響の評価として取り上げるエンドポイントについて、海外評価機関による評価書で検討されたエンドポイント別に整理しました。その結果、血清ALT値の増加、血清総コレステロール値の増加、出生時体重の低下、ワクチン接種後の抗体応答の低下との関連性については、否定できないとの見解を示しています。
TDI(耐用1日摂取量)の設定
ワーキンググループでは、食品健康影響の指標値について、現時点の科学的知見に基づいたTDI(耐用1日摂取量)についても検討されています。
2024年1月のPFAS評価書では、PFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)のTDIは20 ng/kg 体重/日、PFOA(ペルフルオロオクタン酸)のTDIは、20 ng/kg 体重/日と設定することが妥当との見解を示しました。
ただし、今後のPFAS評価の内容によって、将来的にこの数値が見直される可能性も言及されているため、最新の動向には注意が必要です。
海外や国際機関等のPFAS毒性評価
現在、世界各国でPFASの毒性に関する評価が実施されています。日本の省庁や研究機関等が国内の評価を行う際に海外の調査機関データを参考にしているため、日本のPFAS規制の動向を調べる際は海外の評価について理解することが大切です。ここからは、海外の研究機関や国際機関が実施している毒性評価結果の中でも重要なポイントを解説します。
EPA(米国環境保護庁)の毒性評価
EPAでは、200以上の汚染物質にHA(健康勧告値)を設定しています。2016年の健康影響評価では、PFOSとPFOAにHAを設定しています。ただし、HAには法的拘束力はありません。
その後、SWDA(安全飲用水法案)に基づいて、PFOSとPFOAに法的拘束力のあるMCLG(最大許容濃度の目標値)が設定されました。
2023年の健康評価では、PFOS及びPFOAはともに「おそらく発がん性がある」という見解から、MCLGは0 µg/Lと設定されています。
EFSA(欧州食品安全機構)の毒性評価
EFSAは2018年の評価で、以下の4つを潜在的な重大影響として示しています。
- 血清総コレステロール値の増加
- 血清ALT値の異常率の増加
- ワクチン接種後の抗体反応の減少
- 出生体重の減少
2020年の評価では、血清総コレステロール値の増加について、PFASが胆汁酸とともに腸肝循環を受けることや、コレステロール代謝が胆汁酸の消化管での再吸収に影響を及ぼすことにも触れています。
WHO(世界保健機関)の毒性評価
WHOでは、飲料水中のPFOS及びPFOAに関する飲料水水質ガイドラインの背景文書の草案を2022年11月に意見募集用の文書として発表しました。さらに2023年11月には、寄せられた意見を反映し、IARC(国際がん研究機関)等の最新の証拠や、曝露源等を背景文書に追記する予定としています。
今後もPFASの毒性評価に注目して対応する
PFASが人間の健康に及ぼす影響については、今後も世界中で研究が進められていくと予想されています。国内外の研究結果が日本の法規制の根拠となるケースも多いため、各国の研究機関の毒性評価に関する最新情報を把握しておくことが重要です。
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記事の監修者
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【参考資料】
- PFOS、PFOA に関するQ&A集(案)2023 年7月時点|環境省
- 評価書 有機フッ素化合物(PFAS)令和6年(2024年)1月|食品安全委員会
PFAS National Primary Drinking Water Regulation|EPA - Risk to human health related to the presence of perfluorooctane sulfonic acid and perfluorooctanoic acid in food|EFSA
- PFOS and PFOA in Drinking-water: Background document for development of WHO
Guidelines for Drinking-water Quality|WHO