プラスチックもPFASの一種に分類される?日本と諸外国の規制動向を調査
投稿日:2024年9月9日
近年、環境問題においてプラスチックの話題を耳にする機会が多くなっています。特に、世界中で規制が強化されているPFAS(有機フッ素化合物)は、プラスチックの環境問題と密接な関係があります。私たちの生活には欠かせないプラスチックですが、実はその特性について詳しく知らない方も多いのではないでしょうか。この記事では、プラスチックの特性や規制に関する動向、PFASとの関連性について解説します。
INDEX
プラスチックとは?
プラスチックは自由に形を変えられる素材であり、その特性を活かして日常生活の様々な場面で活用されています。ここでは、プラスチックの定義や利用されている製品などについて詳しく解説します。
粘土のように形を自由に形成できる物質
プラスチックは、ギリシャ語で「可塑性(かそせい)がある」という意味を持つ「plastikos」が語源となっている定説があります。可塑性とは、力を加えることで形を変え、力を取り去っても変化した形を維持する性質を指します。
JIS(Japanese Industrial Standards・日本産業規格)では、プラスチックについて「必須の構成成分として高重合体を含み、かつ完成製品への加工のある段階で流れによって形を与え得る材料」と定義しています。
一方、プラスチック業界では、主に石油に由来する高分子物質(主に合成樹脂)を原料とした可塑性の物質のことをプラスチックと定義していますが、植物由来材料や天然樹脂を原料としたプラスチックも増えてきています。
容器・包装等で幅広く利用される
プラスチックと聞くと、一般的にはペットボトルなどをイメージされる方も多いでしょう。しかし、実は私たちの生活における多くの場面でプラスチックが活用されています。プラスチックを使った製品の事例については、以下の表をご覧ください。
プラスチックを利用した製品の例 |
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参考:https://www.jpif.gr.jp/learn/pamphlet/doc/pamphlet_plastic-in-life.pdf
幅広い物質が含まれる
プラスチックには、様々な化学物質が含まれており、その物質が持つ特性によっていくつかの種類に分類されています。
プラスチックは、主に熱を加えることで形を変化させる「熱可塑性樹脂」と、熱を加えても形を変化させない「熱硬化性樹脂」という2つに分類できます。
さらに、熱可塑性樹脂は汎用プラスチックとエンジニアリングプラスチックに分けられ、エンジニアリングプラスチックは汎用エンプラとスーパーエンプラに分類されます。
その中でも、スーパーエンプラに含まれている化学物質の一つが「フッ素樹脂」です。フッ素樹脂は多くの場面で使用されているプラスチックの一種で、フライパンの表面コーティングに使用されることもあります。
プラスチックに含まれるフッ素樹脂はPFASの一種
プラスチックの一種であるフッ素樹脂は、PFASの一種でもあります。PFASの中でも特に私たちの生活と深く結びついている物質なので、フッ素樹脂とPFASとの関連性についても理解を深めましょう。
PFASとは有機フッ素化合物のこと
有機フッ素化合物とは、炭素とフッ素の結合を持つ有機化合物のことを指し、フッ素で全置換された炭素を持つものがPFAS(ペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物)と呼ばれています。
一方、フッ素樹脂も炭素とフッ素が結びついた有機化合物です。経済協力開発機構(OECD)の最新の定義では、上記のPFASに該当するフッ素樹脂もPFASとして扱われます。
PFASの全てが人体に有害とは限らない
PFASには1万種類以上の物質がありますが、その全てが人体に有害な物質ではありません。食品衛生安全委員会のファクトシートによると、フッ素樹脂が人に与える影響について「フッ素樹脂自体の経口摂取に関する健康影響の報告は見当たりません」と記載されています。
ただし、フッ素樹脂の中でもPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を315〜375℃に加熱した時の生成物を吸引した場合には、インフルエンザに似た症状を引き起こす事例も報告されています。日常生活で遭遇する機会は少ないと思われますが、念のため注意しておきましょう。
一部のPFASには有害性が認められる
PFASの中でも、PFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)や、PFOA(ペルフルオロオクタン酸)、PFHxS(ペルフルオロヘキサンスルホン酸)などは、発がん性や免疫力の低下などの有害性が報告されています。こちらの記事もご覧ください。
【関連記事】PFOSとはどんな物質なのか?人体への影響も含めて解説
ハンバーガーの包み紙やテイクアウト用の紙製容器の一部に有害なPFASが含まれていた事例も報告されており、FDA(アメリカ食品医薬品局)は、2024年2月に食品包装用耐油剤に使用されていたPFASを販売中止にしたと発表しました。
また、「プラスチックの中にはPFASを含むものもある」とする研究が2023年3月に発表されているため、プラスチックは全て安心できるわけではないことを理解しましょう。
PFASは環境や人体に残留する
PFASの大きな特徴は、難分解性と高蓄積性、長距離移動性です。一度自然界に放出されたPFASは、分解されることなく残り続け、土壌や水中、生物の体内に蓄積していきます。
その特徴から「永遠の化学物質(フォーエバー・ケミカル)」とも呼ばれており、国境を超えて広く残存し続けていることから世界中で問題となっています。
EUでフッ素樹脂が使用できなくなる可能性も
ヨーロッパではフッ素樹脂が使用できなくなる可能性も浮上しています。2023年2月にヨーロッパの化学物質管理規則である「REACH規則」において、PFASを規制する提案が提出されました。
この提案内容にはフッ素樹脂も含まれており、将来的にヨーロッパでフッ素樹脂が規制対象となる可能性もあります。
一定濃度以上のPFASは全面的に禁止になる
2023年2月に提出されたPFAS規制に関する提案では、1万種類以上のPFASを製造、上市・使用(輸入を含む)を制限する内容が含まれています。
この提案内容によると、規制の対象となる物質のうち一定の濃度を超えるPFASを対象としており、用途ごとに猶予期間付きの特例が出される予定です。
規制の対象物質としてフッ素樹脂(PFTE)の名前が記載されていますが、石油及び鉱業におけるフッ素樹脂の用途に関しては、13.5年の猶予期間が設けられる予定です。
早い段階から規制強化を見据えた動きを
日常生活に欠かせないプラスチックに含まれるフッ素樹脂は、PFASの一種です。現在、日本でフッ素樹脂を規制する動きはないものの、EUではフッ素樹脂を規制する動きが本格化しています。フッ素樹脂を扱う企業や製造メーカーの担当者は、国内外の機関が発信している最新情報を収集しつつ、早めに対応策を検討することが重要です。
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記事の監修者
ユーロフィン・プロダクト・テスティング株式会社 代表取締役 金子 貴義 |
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<経歴> 大学卒業後、環境調査・検査業界に15年余従事、2015年より現ユーロフィン・プロダクト・テスティング株式会社にて工業製品の環境負負荷物質管理に携わったのち、2019年よりPFAS等化学物質や食品包装等の海外法令調査・コンサルティングの実施、および管理に従事。 |
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【参考資料】
- Submitted restrictions under consideration - ECHA
- Annex to the ANNEX XV RESTRICTION REPORT|ECHA
- FDA Announces PFAS Used in Grease-Proofing Agents for Food Packaging No Longer Being Sold in the U.S. | FDA
- 資料1_有機フッ素化合物(PFAS)ワーキンググループにおける審議結果について(928回 食品安全委員会)|食品安全委員会
- ファクトシート・フッ素樹脂|食品安全委員会
- 水道水中の有機フッ素化合物(PFAS)について 横浜市
- 暮らしの中のいろいろなプラスチック | 日本プラスチック工業連盟
- こんにちはプラスチック | 日本プラスチック工業連盟
- プラスチックってなに? | 日本プラスチック工業連盟
- EUにおける化学物質規制の動向 (2023年6月22日 No.3595) | 週刊 経団連タイムス