一度体内に取り込まれたPFASはどうなる?健康への影響と排出プロセス
投稿日:2024年11月28日
PFAS(有機フッ素化合物)のうち、一部の化学物質は人体に影響を与える可能性が示唆されており、日本を含めた世界各国で製造・使用・輸出入が制限されています。
一度環境中に放出されたPFASが半永続的に残留する性質も問題視され、特にEUなどでは厳しい規制が検討されています。
このような背景から、体内にPFASを取り込んだ場合の健康への影響について気になる方もいるでしょう。
この記事では、PFASが体内に入った場合の影響や人体からの排出プロセスを解説します。
INDEX
PFAS(有機フッ素化合物)とは
PFAS(有機フッ素化合物)とは、ペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物を総称した化学物質群を指します。
炭素とフッ素の強固な結合によって耐熱性、撥水性、撥油性などの優れた特性を持ち、長年にわたり泡消火薬剤や工業用コーティング剤、生活雑貨など多様な製品に使用された歴史があります。
PFASについてより詳しく知りたい方は、以下の記事も併せてご覧ください。
関連記事:PFAS(有機フッ素化合物)とは?問題視される理由や具体的な規制を解説
人体に影響を及ぼす可能性のあるPFAS
一部のPFASは人体や生物に影響を及ぼす可能性があり、POPs条約(残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約)によって製造・使用・輸出入が原則禁止されています。
日本もPOPs条約の加盟国であり、国内では化審法(化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律)によって特定の化学物質を規制しています。
現在の化審法では、以下の3つの化学物質は原則として製造・使用・輸出入が制限されています。
PFASの曝露は全世界で発生している
PFASの特性である難分解性・高蓄積性・長距離移動性により、日本を含めた世界各国でPFASの曝露が発生しています。
日本国内の事例では、複数の都道府県で河川水や地下水を調査したところ、国の定める水道水の暫定目標値(50 ng/L以下)を上回る量のPFOSおよびPFOAが検出されたという報道があります。
水道水は浄水場を経由するとはいえ、河川の近隣の配管を通ったり、地下水を井戸から汲んで使用する際にPFAS曝露が起こる可能性は考えられます。
また、スウェーデン・ストックホルム大学の研究者たちは、2022年8月2日付で学術誌『Environmental Science & Technology』に発表した論文で「PFASは大気全体に広がり、汚染されていない場所はない」とする証拠を示しました。
さらに、アメリカの非営利団体・EWG(Environmental Working Group)が野生動物からPFASが検出された過去5年間の研究論文125本を集めて分析したところ、研究対象となった動物、鳥、魚の全てからPFASが検出されたデータもあります。
PFASの曝露経路
PFASの代表的な曝露経路は以下の通りです。
- 消防活動
- PFASを使用する化学工場での勤務
- 食料品・飲料水の摂取
- 土壌・大気
- PFASを含む製品から出るほこり、繊維の吸引
- PFASを含む製品の使用
- PFASを含む包装紙で包まれた製品の使用
身近な生活の様々な場面に曝露経路があるため、知らないうちに体内に入っている可能性は十分にあります。
また、一般的な日常生活の中にも曝露経路がある以上、PFASを完全に取り込まないようにする対策は現実的ではありません。
PFASはヒトの体内に残留している?
PFASの曝露経路は無数にあり、世界中例外なくほぼ全ての人間が影響を受けている可能性があります。
そのため、仮に血液検査を行った場合、大半の人から微量のPFOS、PFOAが検出される可能性が考えられます。
ただし、現状の研究データでは健康に影響を及ぼす曝露量・血中濃度については明らかになっていないため、血液検査の結果だけで健康に対する影響を把握することは難しくなっています。
体内のPFASが及ぼす健康への影響
多くの研究では、健康への影響が懸念される一部のPFASが体内に蓄積され続けることで、ヒトの体に何らかの変化が表れると予測されています。
ただし、PFAS曝露が直接的な原因と判断された健康被害は日本では確認されておらず、現在各国で研究が進んでいる段階です。
なお、IARC(国際がん研究機関)によれば、PFOAは「グループ1(ヒトに対して発がん性がある)」、PFOSは「グループ2B(ヒトに対して発がん性がある可能性がある)」に分類されています。
また、EUもPFOAを「発がん性区分2(ヒトに対する発がん性が疑われる)」に分類しています。
仮に体内からPFOSやPFOAが検出されてもすぐに病気になるリスクは低いですが、各国の研究データや規制動向には十分な注意を払っておきましょう。
体内のPFASが排出されるメカニズム
体内に取り込まれたPFASは最終的には排出されますが、長い時間がかかる点に注意しなくてはいけません。
摂取を止めてから体内に吸収された量の半分が排泄される時間を「生物学的半減期」と言いますが、PFASの種類によって具体的な年数は異なります。
【PFASの半減期目安】
- PFOS:5年
- PFOA:3年
- PFHxS:6年
- PFBS(ペルフルオロブタンスルホン酸※):44日
※フッ素系界面活性剤の一種で、衣類、繊維、紙などの防汚材として使用されています。
PFBSもPFASの一種ではあるものの、PFOS、PFOA、PFHxSと比べて炭素数が少ないことから、半減期も短くなっているのが特徴です。
また、PFOS、PFOA、PFHxSの半減期が長くなる理由として、以下の2点が考えられます。
体内に残留するPFASを除去する方法
最新の研究では、体内に残留するPFASを除去するのに有効な方法は確立されていません。基本的には自然に排出されるのを待つのが得策です。
一部の研究ではPFAS血中濃度を下げる薬の研究結果も出ていますが、副作用や効果のあるPFASの種類などに不確定な情報が多いことから、実用レベルには及んでいないのが実情です。
体内に残留するPFASのリスクを把握しましょう
PFASの曝露経路は幅広く、日常生活を送っているだけでもPFASが体内に入る可能性は十分に考えられます。
一部のPFASが人体や生物に及ぼす影響にはまだ不明な部分が多く、また、体内に取り込んだからといって直ちに危険が及ぶわけではありません。
ただし、発がん性をはじめ健康を害する様々な症状が疑われている以上、できる限りPFASを取り込まないように意識して生活することが大切です。
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ユーロフィン日本環境株式会社 ラボラトリー事業部 POPsグループ PFAS・PCBチーム 藤田 潤 |
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<経歴> 2021年 神奈川大学 理学部 卒業 クルマエビの卵巣成熟度を評価する新たな指標遺伝子の探索について研究を行う。 <発表> 2023年9月 第30回日環協・環境セミナー全国大会「水中の揮発性PFAS分析法の検討」 |
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【参考資料】
- PFOS、PFOA に関するQ&A集 2024 年8月時点|環境省
- PFASガイドブック|社会医療法人社団・健生会PFAS専門委員会
- 国際がん研究機関(IARC)の概要とIARC発がん性分類について|農林水産省
- PFOAとその塩及びPFOA関連物質の有害性の概要|厚生労働省