日本の水道水の安全性は?国内のPFAS汚染状況と暫定基準値を確認しよう
投稿日:2024年6月5日
PFAS(有機フッ素化合物)は、人間の健康に影響を与えることから社会的な関心が高まっています。国内では水道水にPFASが含まれる事例も複数発生しているため、正しい知識でPFAS関連のニュースや国内の規制について学ぶ必要があります。この記事では、日本の水道水におけるPFAS汚染の状況や規制の動向を解説します。
INDEX
PFAS(有機フッ素化合物)とは
PFAS(ペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物)とは、炭素とフッ素の原子を含む有機フッ素化合物の総称です。PFASは約1万種類以上あると言われており、その化学的特性から日常生活で使用する様々な製品に活用されています。
PFASについてはこちらの記事もご覧ください。
【関連記事】PFAS(有機フッ素化合物)とは?問題視される理由や具体的な規制を解説
PFASの特性
PFASの代表的な特性は以下の3つです。
- 難分解性
- 蓄積性
- 長距離移動性
一部のPFASは自然界ではほとんど分解されず、長期間環境中に残存することが危惧されています。動植物に蓄積されやすい特性から、自然環境にも影響を与える可能性があります。
PFASが含まれているもの
PFASには、熱に強い、撥水性や撥油性が高い、汚れがつきにくいといった特徴があり、これまでに多くの産業で活用されてきました。
特に撥水加工・撥油加工の使用頻度が多く、私たちの生活と密接に関わっています。
PFASが含まれている製品の事例 |
防水加工の服や靴、レインコート、カーペット、スマートフォン、消化剤、殺虫剤、防水スプレー、ファンデーション、口紅、界面活性剤、コンタクトレンズ、クッキングシート、食品包装紙、フライパン・鍋、自動車部品、清掃用具、潤滑油、アイロン、マイクロチップ、太陽光パネルなど |
PFASが健康に及ぼす影響
一部のPFASは、人体に対してコレステロール値の上昇、発がん、免疫系等との関連が報告されています。
2022年に アメリカの学術機関「全米科学アカデミー」の委員会 は、連邦政府からの要請により5,000本以上の論文を分析しました。この結果からまとめられたガイダンスでは、PFASが健康に及ぼす影響について以下のように公表しています。
全米アカデミーズの分析結果 | |
カテゴリ | 健康上の影響 |
十分な証拠がある | 抗体反応の減少(大人と子供) 脂質異常症(大人と子供) 乳児と胎児の成長の減少 腎臓がんのイングリースリスク(成人) |
関連性の限られた示唆的な証拠 | 乳がんのリスクの増加(成人) 肝酵素の変化(大人と子供) 妊娠誘発性高血圧(妊娠高血圧及び子癇前症)のリスク増加 精巣がんのリスクの増加(成人) 甲状腺疾患と機能不全(成人) 潰瘍性大腸炎のリスク増加(成人) |
引用:Guidance on PFAS Exposure, Testing, and Clinical Follow-Up
水道水のPFAS汚染と国内の対策
国内の水道水は、研究機関が定期的に全国的な調査を実施し、状況把握と対策を行っています。PFASに関しては日本独自の水質管理目標値を設けており、厳しく管理しています。
日本の水道水のPFAS汚染の状況
令和5年度第2回水質基準逐次改正検討会の資料「PFOS及びPFOA等に関する検討について(水道関係 )」によると、令和3年度水道統計において2地点での水質管理目標値(50 ng/L)の超過が確認されています。
しかし基準超過が確認された地点を所管する水道事業体において、当該水源からの取水停止、水源切り替え等の対応を実施したため、現在は基準値を超えた水は給水されていません。
日本の水道水にPFASが含まれる原因は?
高い蓄積性と長距離移動性を持っていることが、水道水にPFASが含まれてしまう一つの要因と考えられています 。
例えば、工場の排水などから一度自然界に放出されたPFASは、自然環境で分解されることなく土壌に蓄積していきます。蓄積したPFASは地下水や河川に流れ込み、水道水として使用する水源地にまで入り込みます。この場合、日本の水道水でPFASが検知されるのは、PFASの蓄積性や長距離移動性の高さが影響しているかもしれません。
日本の水道水に対するPFAS規制の内容は?
厚生労働省は、2020年に水道水に含まれるPFASの合算値の暫定目標値を50 ng/Lと 設定しました。これは当時の科学的根拠に基づき、体重50 kgの人が水を一生涯にわたって毎日2 L以上飲用したとしても、人の健康に悪影響が生じないと考えられる水準を基に設定されたものです。
PFAS規制の今後の方向性
2023年7月に開催されたPFASに対する総合戦略検討専門家会議の資料「PFASに関する今後の対応の方向性 」では、「PFOS、PFOAの水質の暫定目標値の取扱を引き続き検討する必要がある」と記載されています。
現在日本で設定されている暫定目標値は、今後継続的に実施されていく研究結果や専門家会議によって変更される可能性は十分にあります。
飲料⽔におけるPFAS規制の最新情報について、分かりやすくまとめた資料を配信しております。
(飲料⽔中のPFAS規制を進めている国や、各国の最新基準値、現在までのPFAS規制の動向など)
日本の水道水の安全基準を確認しよう
日本の水道水は、水質管理目標値を設定して厳しく管理されています。
今後、新しい研究結果や専門家会議によって、日本の水道水の安全基準が変更される可能性もあります。継続的にPFAS関連のニュースを注視して、水道水の安全基準を確認しましょう。
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記事の監修者
ユーロフィン日本環境株式会社 ラボラトリー事業部 POPsグループ PFAS・PCBチーム 藤田 潤 |
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<経歴> 2021年 神奈川大学 理学部 卒業 クルマエビの卵巣成熟度を評価する新たな指標遺伝子の探索について研究を行う。 <発表> 2023年9月 第30回日環協・環境セミナー全国大会「水中の揮発性PFAS分析法の検討」 |
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【参考資料】
- PFASに関する今後の対応の方向性 令和5年7月|環境省
- PFOS、PFOAに関するQ&A集 2023年7月時点|環境省
- PFOS及びPFOA等に関する検討について(水道関係)|厚生労働省
- Guidance on PFAS Exposure, Testing, and Clinical Follow-Up|The National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine