雨水で世界的なPFAS汚染が進む?最新研究で指摘されたリスク
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投稿日:2025年2月6日
近年の調査では、雨水に含まれるPFAS(有機フッ素化合物)が各国の規制基準値を超えているという研究結果が報告されました。
この研究報告では、雨水によって地球規模の汚染が加速する可能性についても指摘されており、地球のPFAS汚染は限界を超えていると主張しています。
この記事では、雨水に含まれるPFASの実態や曝露のリスク、各国が行うべき今後の対策について解説します。
INDEX
PFAS(有機フッ素化合物)とは?
PFAS(有機フッ素化合物)は、撥水性や耐熱性などに優れた化学物質群であり、これまでに生活の様々な場面で活用されてきました。
しかし、環境中で自然に分解されにくい特徴を持っており、一部のPFASは生態系や人間の健康に影響を及ぼすことも指摘されています。
こうした背景から、有害性が高いと評価されるPFASの使用・流通を規制する動きが進んでおり、日本を含む複数の国でPFASを含む製品や飲料水に対する規制が整備されています。
PFASについて詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。
【関連記事】PFAS(有機フッ素化合物)とは?問題視される理由や具体的な規制を解説
4つのPFASが雨水に含まれている
ストックホルム大学とスイスのETHチューリッヒの研究では、地球上のほぼ全ての地域で、雨水中に含まれるPFASが安全水準を超えていることが明らかになりました。
この研究では、以下の4種類のPFASが大気中を介して地球全体に広がり、雨水を通じて環境中に蓄積されていることが指摘されています。
- PFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)
- PFOA(ペルフルオロオクタン酸)
- PFHxS(ペルフルオロヘキサンスルホン酸)
- PFNA(ペルフルオロノナン酸)
この研究によると、雨水中に含まれる4種類のPFASは、多くの地域でEPA(米国環境保護庁)が提示した生涯飲料水健康勧告レベルなどを大幅に超えていると報告されています。
海洋から放出される海水のしぶきに含まれるPFASは、再び大気中に巻き上がり、雨水となって環境中を循環し続ける性質があります。これらの実態に基づいて、研究チームは「地球のPFAS汚染は限界を超えた」と結論付けています。
なぜ雨水にPFASが含まれるのか?
雨水にPFASが含まれる理由は、PFASを含む製品の使用による大気中への排出や、海洋エアロゾル(大気中の液体や固体の微粒子)などが原因と考えられています。ここでは、雨水にPFASが含まれる3つの理由について解説します。
大気中への排出と拡散
空気中へ排出されたPFASは大気中の微粒子に付着し、大気中を移動して広範囲に拡散する可能性が懸念されています。
具体的には、PFASを使用した製品を工場で製造する過程や、PFASを含む泡消火薬剤を使用した際に空気中へ排出される可能性などが指摘されています。特に短鎖のPFASは揮発性が高いため、ガス状になり大気中に溶け込みやすい性質を持っています。
大気中での循環と雨水への取り込み
ストックホルム大学とスイスのETHチューリッヒの研究は、大気中に取り込まれたPFASが雨水として降り注ぐ可能性を示唆するものでした。
同研究報告では、多くの方は雨水を直接飲む機会はあまりないが、一部の地域や熱帯地域では雨水は貴重な飲料水の水源となっている点を懸念しています。
雨水として降り注いだPFASが人の健康に与える影響についてはまだ明らかになっていないため、今後も慎重な調査を継続することが重要です。
海洋エアロゾルと世界的な循環
これまでの研究では、一度大気中に排出されたPFASは最終的に海へと流れ込み、数十年かけて希釈されながら留まり続けるという推測が一般的でした。
しかし近年の研究では、海水噴霧エアロゾルによって著しく濃縮され、大気中から運ばれて再び陸地や河川を汚染する可能性が指摘されています。
雨水にPFASが含まれるリスク
PFASが人の健康に及ぼす影響に関しては研究段階であり、曝露した量と健康への影響の関係性については明らかにされていません。
そのため、雨水に含まれたPFASを長期間浴びることで起こるリスクや影響についても、具体的に示すことはできないでしょう。
しかし、ストックホルム大学とスイスのETHチューリッヒの研究では、現段階で米国やデンマークが示している生涯飲料水健康勧告レベルを超えていることが示されています。
今後規制の検討や議論が進むことで、世界各国でPFAS対策が見直される可能性はあるでしょう。
雨水に含まれるPFASへの対策
雨水に含まれるPFASの曝露を抑えるためには、排出源の管理と使用の規制が重要です。
PFASは環境中で分解されにくく、長期間残留して循環する特性があるため、迅速な使用制限と排出削減が求められます。
具体的には、工場や製造プロセスからの排出を規制・管理するほか、PFASを含む泡消火薬剤の使用等を制限することなどが挙げられます。
また、PFASに汚染された雨水や飲料水を安全にするためには、高度な浄化技術の導入が必要になります。活性炭の吸着プロセスやろ過膜、逆浸透(RO)膜などの代表的な浄化技術に加えて、新たな浄化技術の開発も必要になるでしょう。
雨水への影響も踏まえたPFAS対策が急がれる
雨水にPFASが含まれている実態が明らかになったことで、今後は世界で足並みを揃えたPFAS規制が必要とされてくるでしょう。
特にPFASは環境中で分解されにくく、雨水や海洋エアロゾルを通じて地球規模で循環する性質があるため、一部の国のPFAS規制だけで解決できる問題ではありません。
日本でも化審法や水質汚濁防止法によるPFAS規制が進んでいますが、今後は厳しい規制を導入し、国際的な取り組みと足並みを揃える必要性が出てくる可能性があります。
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【参考資料】
- PFOS、PFOA に関するQ&A集 2024 年8月時点|環境省
- Outside the Safe Operating Space of a New Planetary Boundary for Per- and Polyfluoroalkyl Substances (PFAS) | Environmental Science & Technology
- Sea Spray Aerosol (SSA) as a Source of Perfluoroalkyl Acids (PFAAs) to the Atmosphere: Field Evidence from Long-Term Air Monitoring| Environmental Science & Technology
- Fate and Transport of Per- and Polyfluoroalkyl Substances(PFAS)|ITRC
- 5 Environmental Fate and Transport Processes|Per- and Polyfluoroalkyl Substances (PFAS)
- Outside the Safe Operating Space of a New Planetary Boundary for Per- and Polyfluoroalkyl Substances (PFAS) | Environmental Science & Technology