PFASは食品の容器にも使用されている?容器の種類や検出事例を調査

投稿日:2025年3月日
撥水性・撥油性などの特性を持つPFAS(有機フッ素化合物)は、食品の品質を保つ目的で食品容器や食品包装紙などに広く使用されてきました。
一方で、近年ではPFASが健康へ影響を及ぼす可能性が指摘されており、PFASが含まれる容器について注目が集まっています。
この記事では、PFASが含まれる容器の種類や使用される理由、各国の研究で明らかになった検出の実態について解説します。
INDEX
PFASが含まれる容器とは?
PFASは撥水性・撥油性の高さから、食品を入れる容器に使用される場合があります。
PFASの基本的な特性や、容器に使用される主な理由について解説します。
PFASの特性
PFAS(ペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物)は、炭素とフッ素の強力な結合構造を持つ化学物質群です。
約1万種類以上の化学物質が該当し、炭素鎖の長さによって物質の特性が異なります。
撥水性・撥油性や熱・化学的安定性が高い特徴を持っていることから、半導体の製造や金属メッキ処理剤、泡消火薬剤など、様々な用途で使用されています。
PFASについて詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
【関連記事】PFAS(有機フッ素化合物)とは?問題視される理由や具体的な規制を解説
容器にPFASを使用する理由
撥水性・撥油性・耐熱性に優れるPFASは、食品包装紙をはじめとした様々な種類の容器に使用されてきました。
PFASが含まれる容器は、食品の油や液体の漏れを防ぎ、包装紙の劣化を抑えるなどの役割を果たします。
特に油の使用量が多い料理を提供するファーストフード店では、利便性と品質維持の観点から、食品包装紙にPFASが活用されるケースもあります。
PFAS含有の容器が注目を集める理由
PFASの中でも一部の化学物質は、健康への影響が懸念されています。
日本を含む複数の国で規制の対象になっており、今後規制対象の化学物質が増えることで、PFASを含有する容器の製造・使用に制限がかかる可能性があります。
ここからは、PFAS含有の容器が注目されている理由について解説します。
健康への影響が懸念されている
PFASが健康に及ぼす影響は、世界中で研究が進められており、主に以下の影響を与える可能性が示唆されています。
- 血清ALT値(肝臓の機能を示す数値)の上昇
- コレステロール値の軽微な増加
- 出生体重の低下
- ワクチン接種後の抗体応答低下
ただし、上記の影響とPFASとの関連性や詳細なメカニズムについては、未だに解明されていません。
現時点の研究では、PFASが主たる原因と断定された健康被害は確認されていないため、過度に恐れずに正しい情報を収集する必要があります。
PFASを使用した製品の製造・輸入は規制されている
一部のPFASは、人の健康や環境へ影響を及ぼす可能性があることから、複数の国で規制の対象になっています。
日本を含む多くの国が加盟するPOPs条約(残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約)では、附属書A(廃絶の対象)、附属書B(制限の対象)に、以下の3種類のPFASが記載されています。
- 附属書B:PFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)
- 附属書A:PFOA(ペルフルオロオクタン酸)
- 附属書A:PFHxS(ペルフルオロヘキサンスルホン酸)
また、日本では化審法(化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律)によって、上記3種類のPFASの製造及び輸入が原則禁止されています。
特にPFOAやPFHxSは、食品容器や調理器具のコーティング剤として国内でも幅広く使用されてきた化学物質です。
現在はいずれも規制対象になっているため、これらのPFASを意図的に使用した容器は市場に流通していません。
食品包装紙に使用された事例がある
過去には、実際にPFASを含む食品包装紙が使用された事例もあります。
世界的に有名なファーストフード店は、ハンバーガーの包み紙などにPFASを使用していたことで注目を集めました。
しかし、現在ではPFASを使用した容器を全面的に廃止し、全ての包装紙でPFASを使用しないことを宣言しています。
PFASを使用した容器の事例
実際に多くの食品容器からPFASが検出された事例を紹介します。
アメリカのサイレント・スプリング研究所やノートルダム大学などの研究グループは、2017年に大手ファーストフードチェーンの食品包装に使用されている資材を分析し、結果多くのPFASが含まれていることを明らかにしました。
各包装資材でフッ素が検出された割合は以下の通りです。
- テクス・メクス料理の包装紙:57 %
- デザート・パンの包装紙:56 %
- サンドイッチ・バーガー・揚げ物の包装紙:38 %
- 食品に接触する板紙容器(例:ピザ箱):20 %
- その他飲料容器(例:牛乳の容器):16 %
ただし、取り上げた事例は2017年当時の研究データであり、現在ではファーストフードチェーンが容器に使用するPFASの量は大きく減少している可能性があります。
食品包装紙に含まれるPFASについては、下記の記事で詳しく解説しています。
【関連記事】PFASは食品包装にも使用されていた?世界の規制動向と議論について
PFAS含有容器に関する誤った情報に注意する
PFASはその汎用性の高さから多くの製品に使用されたため、一部の容器にPFASが使用されているといった誤情報も流れています。
例えば、過去には「紙コップのコーティング剤としてPFASが使用されている」と言われていましたが、一般的な紙コップは防水用のラミネート材から作られる場合が多く、これまでに紙コップからPFASが検出された事例はありません。
撥水性のある容器の全てにPFASが使用されていると誤解している方もいますが、信頼性の高い情報を得るためにも、できる限り公的機関や専門家の発表資料を参考に情報を収集することが重要です。
PFASと紙コップの関係性については、こちらの記事で詳しく解説しています。
【関連記事】PFASは紙コップにも使用されている?国内外の調査結果と企業の動向
容器に使用するPFASの代替物質は?
容器に使用されてきた代表的なPFASは、主にPFOAとPFHxSです。
POPs条約の規制対象物質について検討を行うPOPRC(残留性有機汚染物質検討委員会)では、包装紙に用いるPFOAとPFHxSの代替物質として以下の化学物質を挙げています。
対象のPFAS | 代替物質 | |
PFOA | 短鎖フッ素化代替物質としては、6:2 フルオロテロマー由来物質(例えば、6:2 フルオロテロマー由来の側鎖フッ素化ポリマー等) フッ素フリーの物質としては、デンプンやアルギン酸塩、CMC(カルボキシルメチルセルロース)、クロム化合物、フッ化物、ケイ素等 |
|
PFHxS | 非フッ素化代替物質(及び高密度紙などの代替技術) |
上記は、あくまでPOPRCが示した代替物質の一例です。
日本国内での使用実績が確認されていない化学物質も含まれており、他の国では将来的に規制される可能性が高い物質もあるため、代替物質として使用する場合は慎重に検討しましょう。
PFASの正しい知識をもとに容器を選びましょう
PFASは食品保存における汎用性・機能性の高さから、数多くの食品容器などに使用されてきました。
しかし、世界的にPFASを規制する動きが強まっている現代においては、多くの企業がPFASを含む食品容器や包装紙の使用を制限し、環境や人体の健康に影響の少ない代替物質に切り替えています。
食品の保存容器に含まれるPFASに対して不安を感じる方は、正しい情報と知識をもとに製品を選ぶことが大切です。
PFAS MEDIAでは、以下の条件を満たす製品をPFASフリー製品と定義して紹介しています。
PFAS MEDIAにおける「PFASフリー製品」の定義 | |
完成した製品および製造工程において、REACH規則・POPs条約・化審法で規制されている物質及び、今後規制の対象とされるLC-PFCAsが含まれていないこと。 〈物質名〉PFOS、PFOA、PFHxS、PFHxA、LC-PFCA(C9-C21) |
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【参考資料】
- PFOS、PFOA に関するQ&A集2024 年8月時点|環境省
- Fluorinated Compounds in U.S. Fast Food Packaging|American Chemical Society, ACS
- PFOS、PFOA に係る国際動向|環境省