RoHS分析あれこれ
ご依頼時や報告書の提出後に頂く質問の中から良くある質問や、分析依頼をされる前に依頼者の方々に知っておいて頂きたいことなど皆様のご参考になる情報を、RoHS分析関連の各種教育や講演の内容を基にトピックス等を交えてお話いたします。 連載コラムはユーロフィンFQL(旧 富士通クオリティ・ラボ)創立当時に掲載したものとなっています。
第一回 : 材料管理の単位(均質材料?)
第1回は、まず含有分析(濃度測定)を行うときの単位といいますか、分母は何ですか? ということから始めたいと思います。
RoHS指令の基本姿勢
RoHS指令とは、鉛、カドミウム、水銀、六価クロムおよび特定臭素系難燃剤であるPBB(ポリ臭化ビフェニル)とPBDE(ポリ臭化ジフェニルエーテル)を電子機器の材料に使用することを原則禁止するEU(European Union:欧州連合)指令です。これらの物質が現在深刻な環境汚染を引き起こしているか否かは議論のあるところですが、将来に起こるかも知れない問題を予防的に禁止するという立場に立った規制と言えるでしょう。
ここで「原則禁止」とは技術的に代替ができない材料については代替できるようになるまで規制を猶予するという意味で、産業界等の要望を受けて種々の「除外用途」が定められています。また、WEEE指令と分割される前から「技術的観点からの代替可能性」が繰り返し議論されてきたことからも、RoHS指令の基本コンセプトは「技術的に代替が可能なのだからその代替材料を使ってください」というものであると理解するのが自然です。このため、RoHS指令は総量規制 (例えばカップ麺1食中の残留農薬A物質は合計○○μg以下というような)ではなく、「材料」単位で管理すべしということになります。
WEEE指令とは
Waste Electrical and Electronic Equipment (電気・電子機器の廃棄に関する欧州議会および理事会指令) 元々WEEE指令案は、有害物質の含有規制とリサイクル義務に関する二つの内容を含んでいたが、有害物質規制に係わる部分が分離され、リサイクル関係の内容がWEEE指令として先に発効した。
すなわち、一台の装置に使われている鉛の合計量が多くてもそれが除外用途の材料に使われているものなら適合ですが、例え少なくても禁止用途の材料に使われているのなら不適合になります。
均質材料の定義
では「材料」とは何ぞや?ということになります。ここが大きな問題となっています。RoHS指令では均質材料(homogeneous material)という言い方をしていますが、それがどういうものなのかは指令自体には定義されていません。これでは困るということで、欧州委員会はそのFAQのなかで「異なる材料に機械的に分離できない材料」という見解を出しています。ただし、FAQの見解に法的拘束力は無く拘束力のある解釈は裁判所の専管事項であるとの注釈がご丁寧にもついています。三権分立ですからそれは筋なのですが、一々裁判を起こしていたら企業はたまったものではありません。それに「機械的分離」というのも分からない表現です。
こんな曖昧な状態では困るので、英国のDTI(日本の経産省に相当)はガイダンスノートでもう少し具体的に例を出しながら説明してくれています(図1)。もちろん三権分立ですから法的拘束力はありません。
しかし、DTIのガイダンスでもまだ完全にスッキリしたわけではなく、亜鉛メッキ鋼板上のクロメート皮膜は機械的に分離できるのか? といった議論が続いています。
富士通グループにおける管理単位
では富士通グループではどう考えているかというと、図2のようになります。お取引先にRoHS指令等(他にも色々な規制がありますから)への対応をお願いするにあたり、管理単位をどうするかは避けて通れない問題です。そこで、2004年11月に 富士通グループ指定有害物質の非含有管理に関する指針 (41 KB/A4, 7 pages)(以下、指針という)を発行しました。
RoHS指令の解釈であると誤解されることを避ける目的で、あえて「均質材料」や「機械的分離」という言葉を避けて作成しました。その後DTIのガイダンスが発行されましたが管理単位は基本的に同じなので変更なく現在に至っています。
ただし、欧州委員会のFAQやDTIのガイダンスに比べて大きく異なる点があります。それは、分析の立場ではなく、指針は材料設計/部品設計の立場から書かれていることです。
そもそも、代替材料を使うというRoHS指令の基本精神からすれば、「亜鉛メッキ鋼板上のクロメート皮膜は機械的に分離できるのか?」という議論はナンセンスなのです。
その理由は:
- 除外用途として「吸収型冷蔵庫の炭素鋼冷却システムの防錆用としての六価クロム」が挙げられているが、逆に言えば他の用途の防錆用としての六価クロムは禁止ということになる(反対解釈)
- 構造材料である鋼板上に防錆目的で、六価クロムが含まれる従来のクロメート膜を形成するか、三価の代替クロメート膜にするか、はたまたニッケルめっきにするのかは設計者が選択・指定する事項である
ということです。特に 2. は重要です。代替材料があるならそれを使えばよいのです。 材料設計の立場でいえば均質材料などという概念を持ち出すまでもなく、材料とは何かということは常識的に概念されています。それを定義したのが、指針の中の「素材」ということになります。
もちろん電機メーカーや輸出業者としては地球環境も大切ですが販売差止や処罰が気になるところです。RoHS指令違反で検挙する、あるいはそれに対して抗弁するということになりますと、1000ppmと言われても精度はどうか?そもそもクロメート膜中の六価クロム濃度なんてどうやって測定するのか?他の材料と分離できるのか?といった技術的な問題が出てきます。しかし、それはPDCA(Plan-Do-Check-Act)サイクルでいえば、Checkの問題であって、checkできるか否か(バレるかどうか)という観点から設計者が材料選択をするのは本末転倒です。
ということで、指針は材料設計/部品設計の立場から作成いたしました。
ここでCheckの問題といいました。材料分析はCheckの役割を果たすものですが、電子機器にはたくさんの部品が使われており、全て精密に分析することなど困難です。
第二回以降は、PDFにてご覧いただけます。
- 第二回 : セットメーカーにおける含有分析の限界と分析の目的
- 第三回 : 分析結果からの不適合の原因推定(プリント板の例)
- 第四回 : 検証分析を効率的に行うために
- 第五回 : 含有リスクアセスメントの視点
- 第六回 : 素材の種類によるリスク
- 第七回 : 素材の含有リスクマップ
- 第八回 : 知恵を働かせて分離せずに分析(その1)
- 第九回 : 知恵を働かせて分離せずに分析(その2)