猛禽類調査(ワシやタカなどの生息状況調査)
丘陵地や山間部の開発の際に、とかく話題に上る猛禽類の保護の問題・・・・・。環境庁では1996年に、「猛禽類保護の進め方」を発表し、特にイヌワシ、クマタカ、オオタカの3種について、保護するうえでの必要な事項を示しています。
イヌワシやクマタカ、オオタカなどの絶滅の恐れのある猛禽類(ワシ/タカ)調査業務を行います。定点観察による生息状況の確認、営巣地の特定、ラジオテレメトリーを用いた行動圏調査などを実施し、得られたデータをもとに、高利用域を算出し、事業に合致した効果的な保護対策を提案いたします。
ワシ/タカ類は陸上生態系で食物連鎖の最終ステップに位置するため、本来個体数は少ないものです。ところが、近年ワシ/タカ類の個体数は、継続的な減少傾向にあると推定されています。減少の原因は、開発による適切な生息環境の減少のほか、環境汚染物質の蓄積による繁殖成功率の低下も関連しているのではないかといわれています。生息環境の減少といっても、それが、適切な営巣環境の減少なのか、餌動物の減少によるものか、繁殖を阻害する他種の活動によるものか・・・・・・・その、しくみはまだ分かっていません。以下にも示した、ワシ/タカ類の調査の難しさがあり、生態に関するデータがまだまだ不十分であるのが現状です。
ワシ/タカ類は、国内で29種(亜種を含めると35種)が記録されており、そのほとんどが、法的な保護の対象とされているか、または、レッドリストで絶滅の危険がある種としてリストアップされています。
種・《亜種》 | 国内希少野生 動植物種*1 |
特別天然記念物・ 天然記念物 |
レッドリスト*2 |
---|---|---|---|
ミサゴ | - | - | 準絶滅危惧 |
ハチクマ | - | - | 準絶滅危惧 |
トビ | - | - | - |
オジロワシ | ○ | 天然記念物 | 絶滅危惧IB類 |
オオワシ | ○ | 天然記念物 | 絶滅危惧II類 |
オオタカ | ○ | - | 準絶滅危惧 |
《チョウセンオオタカ》 | - | - | - |
アカハラダカ | - | - | - |
ツミ | - | - | - |
《リュウキュウツミ》 | - | - | 絶滅危惧IB類 |
ハイタカ | - | - | 準絶滅危惧 |
ケアシノスリ | - | - | - |
オオノスリ | - | - | - |
ノスリ | - | - | - |
《オガサワラノスリ》 | ○ | 天然記念物 | 絶滅危惧IB類 |
《ダイトウノスリ》 | ○ | - | 絶滅危惧IA類 |
サシバ | - | - | 絶滅危惧II類 |
クマタカ | ○ | - | 絶滅危惧IB類 |
カラフトワシ | - | - | - |
カタジロワシ | - | - | - |
イヌワシ | ○ | 天然記念物 | 絶滅危惧IB類 |
クロハゲワシ | - | - | - |
カンムリワシ | ○ | 特別天然記念物 | 絶滅危惧IA類 |
ハイイロチュウヒ | - | - | - |
マダラチュウヒ | - | - | - |
チュウヒ | - | - | 絶滅危惧IB類 |
種・《亜種》 | 国内希少野生 動植物種*1 |
特別天然記念物・ 天然記念物 |
レッドリスト*2 |
---|---|---|---|
シロハヤブサ | - | - | - |
ハヤブサ | ○ | - | 絶滅危惧II類 |
《オオハヤブサ》 | - | - | - |
《シベリアハヤブサ》 | - | - | - |
《シマハヤブサ》 | - | - | 絶滅危惧IA類 |
チゴハヤブサ | ○ | - | - |
コチョウゲンボウ | - | - | - |
《カラフトコチョウゲンボウ》 | - | - | - |
アカアシチョウゲンボウ | - | - | - |
ヒメチョウゲンボウ | - | - | - |
チョウゲンボウ | - | - | - |
*1:「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」による。
*2:2006年 環境省発表のレッドリストによる。
絶滅危惧IA類:ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高いもの
絶滅危惧IB類:IA類ほどではないが、近い将来における野生での絶滅の危険性が高いもの
絶滅危惧II類:絶滅の危険が増大している種
ワシ/タカ類は行動範囲が広く、また一般に人目に付きにくい所に巣を作るため、その繁殖の様子や行動等をとらえることは、大きな困難を伴います。通常の観測では、個体を確認することができても、その飛翔する先を追うことは不可能です。そのため、調査対象がワシ・タカ類であるときは、特別の調査体制を組み、調査にのぞみます。調査は、地域全体をカバーできるように数カ所ないし十数カ所に調査員を配置し、無線を用いて、発見した個体を連携して追い続けます。一度樹林に入ってしまうと、再び出現するのを待つのですが、出現した個体が、今まで追っていた個体と同一の個体かどうか判断しなければなりません。これを個体識別といいますが、羽の欠け具合や、斑紋の特徴などによって識別します。遠くの、しかも移動している個体について、識別をしなければならないので、かなりの熟練を要する調査です。
もうひとつの難しさは、このような手法によっても個体の活動の限られた側面しか観察できないということです。特にクマタカでは、活動の多くが樹林内であり、我々が確認できるのは、樹林を出て活動しているほんの一部です。個体が確認される頻度の高い場所が、必ずしもその個体が多く活動している場ではないかもしれません。我々の目に付かない場所に、個体にとって重要な環境があるのかもしれません。個体に発信器をつける方法もありますが、個体への影響や山間部での電波の到達等を考慮すると、必ずしも有効ではありません。ですから、我々は、我々に姿を現す個体の行動について、どんな小さなことでも逃さぬよう観察し、繁殖行動や採餌行動に関わりのある記録を積み重ねて、個体と環境とのつながりの把握に努めています。